2015年の町田からつながっていく殺人事件「ノーウェア・ボーイズ」井上先斗著
「ノーウェア・ボーイズ」井上先斗著
ミステリー小説の舞台といえば皆さんはどこを思い浮かべるだろうか? 人が住んでいない孤島、怪物の伝承がいまだ残っている田舎。近代ミステリーだと東京23区の街中が舞台のテロや連続殺人事件もあるだろう。そういった意味で本著の舞台はレアなケースだと思う。
東京都町田市。東京都だが大都会というわけではない。どことなく途上の空気感が今も残っている半都会な街だ。何故こんなに私は町田に強気なのか。それは私自身小田急線沿い出身で、小学校の頃から町田に出入りしていた人間だからである。読んでみると舞台が珍しいだけでなくミステリーとしても読みごたえがあった。
物語は2025年6月の新宿から始まる。主人公の根津光一は中学時代の仲間と飲み屋で久しぶりに再会する。その場にいなかった仲間のひとり、猪瀬が結婚したことを知った光一。ところがこの飲み会の後、その猪瀬がとある男性を殺したというニュースが飛び込んでくる。話はここから、彼らが熱く重い青春を送った2015年の町田へと移っていく。
当時中学生の光一は町田の知る人ぞ知る癒やしスポット町田リス園でとあるテロを実行しようとしていた。ところが計画は失敗、逆にリスたちに襲われかけたところをひとりの女性に救われる。彼女の名前は響。大学生ぐらいの見た目で「リスに襲われた少年少女を助けることを生業にしている」とどこか不思議な言動をしてくる。年上で魅力的な響を光一は町田のさまざまな場所で見かけるようになる。そしてこの響こそ、先ほど出てきた猪瀬の妻になる女性であり、猪瀬が起こしたとされる殺人事件は、この2015年の町田からつながっていくのだ。にじみ出る絶妙なディープさがまさに町田だなと読んでいて思い出せた。
過去の町田編では日常の謎の要素がありつつ、それが現在には殺人事件につながっていくというミステリーとしての構成が見事であると同時に、ガラスのように繊細な中学生の心と、大人になり周りの状況が変わっても芯にある少年の心を取り戻そうとする葛藤、この難しい2つの描写を見事に描き切っていて純文学に似た満足感も楽しめた。
学生時代、町田で楽しい思いも怖い思いもした私が自信を持って薦められる町田小説である。 (KADOKAWA 1870円)



















