「秘録 警察庁長官銃撃事件」上法玄著 服役中の狙撃犯が“小さなお爺ちゃん”で違和感

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「秘録 警察庁長官銃撃事件」上法玄著

 1995年3月30日。国松孝次警察庁長官が自宅前で銃撃され、3発の銃弾を浴びて瀕死の重傷を負った。その10日前にはオウム真理教による地下鉄サリン事件が起きていた。国の治安を守る最高責任者への銃撃は、捜査撹乱を狙ったオウムの犯行だったのか? 

 フジテレビの駆け出し記者時代からこの事件の報道に携わってきた著者にとって、この事件はまだ終わっていない。本作は、数千ページもの捜査資料と20年に及ぶ関係者への取材をもとに、封印されていた捜査内容を明らかにした迫真のノンフィクション。

 大々的な捜査が行われる中、有力な容疑者が浮上する。オウム真理教の信者でもある現役の警視庁巡査長X。もしXが事件に関与していたとなれば、警察史上、類を見ない不祥事だ。Xの取り調べは限られた捜査員によって極秘で行われた。「自分が撃った」「自分は関与していない」「現場には逃走支援で行った」「自分が撃った気がする」と、Xの供述は四転五転、捜査は混乱した。一方で特捜本部は、坂本弁護士一家殺人事件の実行犯である早川紀代秀や端本悟の関与を徹底的に調べていた。

 こうしたオウムに対する大捜査の裏で、もうひとりの男が登場する。銀行強盗など複数の犯罪歴を持つ中村泰が、「長官を撃ったのは自分だ」と自供したのだ。銃に詳しく、数多く所持。犯人目線で書いた銃撃事件の叙事詩まで残していた。中村こそ実行犯だと確信する捜査官もいた。

 翌年に事件の公訴時効が迫った2009年、著者は服役中の中村と、念願の面会を果たす。現れたのは“小さなお爺ちゃん”だった。銃撃の目撃証言とは風貌が異なる。証言の細部について質問するが、腑に落ちない。例えば、4発目の銃弾はどこに向けて撃ったのか。老人の答えは事実と違っていた。

 容疑者Xも中村も限りなく銃撃犯らしく見えるのだが、何かが違う。虚実が入り乱れ、複雑に絡まり合って、事件から30年をへた今も真相は藪の中。銃撃犯が判明する日は来るだろうか。

 (草思社 2970円)

【連載】ノンフィクションが面白い

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