「手配する女」著者・山口恵以子氏が描く、凄腕の手配師へとのし上がった女の人生の物語

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「手配する女」山口恵以子著

 75歳にしてビル清掃員として働く三矢唯のもとに、裏の仕事仲間・下斗米から連絡が入るところから物語は始まる。裏の仕事とは、地面師グループ内で地主のなりすまし役になる人物を手配する手配師だ。人生最大にして最後の大仕事になりそうだと思う唯だったが、彼女にはここに至るまでの波乱の人生があった。

「Netflixでも話題の『地面師たち』のモデルになった地面師詐欺事件で、実際の手配師を務めたのが73歳の女性でした。彼女は普段、掃除の仕事をしていたのだと聞いて、私自身が築地の食堂で働いていた当時、同じ始発の電車で一緒に通勤していた清掃関係者のことを思い出しました。もしかしたら私が知る掃除のおばちゃんの中に、手配師がいたかもしれないとふと思って、事件そのものではなく、手配師の女の人生を描きたくなったのです」

 なぜ唯は、手配師になったのか。その謎を明らかにするため、時代は昭和に遡る。昭和50年、退官者の天下り先だった文部省傘下の特殊法人で働いていた唯は、職場を訪ねてきた男と知り合ったことを契機に株式投資詐欺に巻き込まれた。職場にいづらくなり、家からも追い出された唯は身一つで地方の旅館で働き始め、そこである男から思わぬ誘いを受けることになる……。

 本書は、ごく平凡な結婚を夢見ていた娘が、どうにもならない状況に追い込まれた末に腹をくくって地面師グループの仲間になることで、凄腕の手配師へとのし上がっていく姿を描いた女の人生の物語だ。いったん掃除のおばさんの制服を身に着ければ、誰もが油断して本性を露呈する。鋭い観察力と情報収集力、苦難を味わったからこそ身に付けた警戒心や注意力が、手配師の仕事の中でいかんなく発揮されていく。

「唯が最初勤めていた会社を特殊法人にしたのは、以前その手の会社の告発文を読んだことがあったから。官庁からの天下り先として、税金から高額な報酬や退職金が支払われるわけですが、彼らがそれで贅沢三昧をしていたり愛人を囲っていたりする様子を唯は見ていた。自らの才覚を使って詐欺を行う地面師グループに出会ったとき、唯は地面師の方が報酬を得るだけの労力を払っていると感じるわけです」

 唯が手配師の仕事を「人助け」と考えるようになる過程も興味深い。何らかの不運で恵まれなかった人たちを唯が抜擢することで、彼らはある程度の金を得て起死回生の機会をつかめるのだ。思わず唯を応援してしまう読者もいるだろう。

 都会の一等地を地主が手放さない理由を唯が突き止めるストーリーも盛り込まれ、犯罪ミステリーとしてもたっぷり楽しめる。不動産登記法の改正や防犯カメラの普及など、詐欺師にとってはやりにくい時代の変化もリアルに描かれている。本書を読むと、彼らがどのようにターゲットを見つけ、どんな方法で買い手をだますのかがよくわかるはずだ。

「自分の持ち家や親の土地などが、知らないうちにターゲットになっていることって意外とあるもの。不動産価格が上がっている今は、地面師にとって価格を吊り上げやすい時代。カモにならないためにも、本書を通じて彼らの手口をのぞいてみてはいかがでしょうか」 (新潮社 2200円)

▽山口恵以子(やまぐち・えいこ) 1958年東京生まれ。早稲田大学文学部卒。2007年「邪剣始末」で作家デビュー。13年「月下上海」で松本清張賞を受賞。主な著書に「食堂のおばちゃん」「婚活食堂」「ゆうれい居酒屋」シリーズなどがある。

【連載】著者インタビュー

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