プーチンの野望と陰謀

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「諜報国家ロシア」保坂三四郎著

 長期化はもはや間違いなしと識者が口をそろえるウクライナ戦争。その根底にあるのはプーチンのあくなき野望と執拗な陰謀だ。



「諜報国家ロシア」保坂三四郎著

 かつて20歳でロシアに留学して以来、熱烈なロシア好きになった著者。以来、長年にわたって「プーチンに心酔」していたという。こういう若者は少なくない。ロシア文化に魅せられ、ロシア文学を偏愛し、アメリカ中心の国際報道に反発し、いっぱしのロシア通になった若者たちに、ロシアの諜報機関は接触する。彼らは政府の高官らに独占インタビューする「特別待遇」を与えられたり、非公開資料にアクセスできたりする快感にハマっていくのである。この手法はソ連時代のKGBや、その後継組織FSB(連邦保安庁)などの諜報機関に受け継がれ、ロシア好きになった若者の心理を巧妙に利用してプロパガンダを行うわけだ。著者もそんなロシアびいきだったらしい。

 しかし2014年、クリミア併合に疑問を抱いた著者はウクライナに旅し、現実にめざめてゆく。そんな体験を原点に書かれたのが本書。

 ニセ情報を流すなどの手法はKGBが得意としたもの。ソ連崩壊後もモスクワから発信され続け、2016年の米大統領選でトランプ当選の大番狂わせが巻き起こる一因となったのである。これらの作戦の陰にいたのが、むろん元KGB要員だったプーチン。元スパイゆえ軍部との関係は微妙といわれる独裁者のもとでの実態が明らかにされている。

(中央公論新社 1078円)

「ロシアの情報兵器としての反射統制の理論」アンティ・ヴァサラ著 鬼塚隆志監修

「ロシアの情報兵器としての反射統制の理論」アンティ・ヴァサラ著 鬼塚隆志監修

 えらく小難しそうな書名で、しかも著者はフィンランド軍の将校というからますます正体不明だが、「反射統制」は相手方の発想(考え方や意思決定)を理解し、そっくり自分のほうに写し取ることで相手の行動をコントロールすること。こちらが望むような行動を相手が自然にとるように仕向け、ひそかに相手の裏をかいて思い通りに操ることだ。それを最新の認知科学や制御工学、心理学、神経生理学などを動員して戦術に活用するというのがロシア得意の「反射統制」戦術なのだ。

 背景にあるのは動物(人間を含む)の神経伝達機能の研究を通して機械を制御するサイバネティックス理論。ソ連時代は「資本主義による詐欺」と弾劾されたが、意思決定過程に介入することで他人を動かすことが可能と見てソ連でも独自の発達を遂げ、独自のコンピューター研究を後押ししたという。

 著者は反射統制の理論の有効性を強調する一方、「現在のロシア政府」が自己批判(自分を客観的に評価する)に応用できるかは不明と皮肉に結論づけている。

(五月書房新社 2530円)

「プーチン(上・下)」フィリップ・ショート著 山形浩生ほか訳

「プーチン(上・下)」フィリップ・ショート著 山形浩生ほか訳

 結局プーチンとは一体何者なのか。本書はいまのところ最新の本格的な伝記。著者は毛沢東の伝記などを多数手がけてきたイギリスのベテランジャーナリストだ。上下巻にわたる大冊が描くのは小柄で痩せっぽちの少年が諜報機関KGBを経て、祖国ソ連の崩壊を目の当たりにしながら新生ロシアの権力のふところにもぐりこむ様子。

 エリツィン大統領(当時)の辞任で大統領代行の座を手にし、クリントン米大統領から祝意を受けて以来、次々に入れ替わる西側の首脳を手玉にとってきた。就任したばかりの独メルケル首相が大型犬を苦手としていることを知りながら、わざと真っ黒な猟犬を会談の席にはべらせるなどお茶の子さいさい。サルコジ仏大統領にはトップ会談の席上、ヤクザまがいの脅し文句を浴びせたという。

 原著初版の出版はクリミア併合の前。その後に出たペーパーバック版でも、侵攻は思いつきの産物、ウクライナのNATO加盟を阻止すれば後は悠々自適の引退準備……という楽観論を披露しているという。

 本書では訳者解説がうまくフォローを入れて価値を上げている。

(白水社 上・下各4950円)

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