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「職場の発達障害」岩波明著

 いまや広く知られるようになった「発達障害」だが、正しい認識を得ているかは疑問だ。

  ◇  ◇  ◇

「職場の発達障害」岩波明著

 発達障害といっても内容はさまざまなのに、素人はハンパな知識でまちがった自己診断をしがちらしい。本書は発達障害研究を専門とする精神科医が豊富な臨床例をもとにわかりやすく紹介する。

 たとえば、アスペルガー症候群の疑いで著者の病院にやってきた男たち。他人の話を聞かない、共感能力が薄いなどに不満を抱いた妻から受診を勧められたというのだが、問診の結果、アスペルガーではないと診断されたという。具体的には、不注意で勤務先でも顧客との約束を忘れる、衝動性があるため相手の話が終わらないうちに思いつきで反論してしまうなど。こういった行動はADHD(注意欠如多動性障害)の症状なのだ。

 診断後にどのようなアドバイスと投薬の指示をし、その後の経緯がどうなったかまで紹介しているのも専門外来を持つ病院の院長という立場にある著者ならではだろう。

 発達障害の特性がある人々は科学や芸術の分野で新風を吹き込む「ギフテッド」として知られるようになったが、彼らが苦労なく活躍できる社会をつくるのには課題が多い。「多様性」は岸田首相まで得々と口にする流行のコトバだが現実の社会を多様性に開くのは生易しい仕事ではないのだ。

(PHP研究所 1034円)

「ルポ 高学歴発達障害」姫野桂著

「ルポ 高学歴発達障害」姫野桂著

 発達障害がある人がひときわ苦労するのは「いい大学出てるのに、こんな簡単なこともできないの?」と驚かれること。高学歴があだとなって、逆に軽蔑されることさえある。本書は自身が発達障害がありながら日本女子大を卒業したフリーライターによるルポ。

 東大にストレートで合格、難関の法学部を卒業したにもかかわらず明確に指示されないと会議室の予約もできない女性。うつ病で長期間休職したところ親から「育て方をまちがえた」といわれた慶大卒の女性。さまざまな症状に悩む人にていねいにインタビューし、その苦労を当事者目線で明らかにしてゆく。

 発達障害はマルチタスクが苦手。それゆえ、たとえば仕事で複数の直しが必要な事案を前にすると、目の前の修正に没入してほかの修正を忘れてしまったりする。

 推測も忖度もできないため、会議室の予約といった簡単な配慮でもストレートに命令されないとわからないなど、職場でのコミュニケーションに人の何倍も苦労するのだ。

(筑摩書房 924円)

「境界知能の子どもたち」宮口幸治著

境界知能の子どもたち」宮口幸治著

「ケーキの切れない非行少年たち」がベストセラーになった著者。臨床心理士、児童精神科医として長年、医療少年院や女子少年院に勤務し、いまは立命館大で教壇に立つ。著者は発達障害とならぶ「境界知能」問題に取り組む専門家だ。

 境界知能とは「IQ70以上85未満」のこと。常識的には知的障害と見えないが、学校の授業についていけない、友達づきあいができない、運動が苦手、感情のコントロールが苦手といった症状だという。まさに発達障害とそっくりだ。

 しかし、世間では理解されないことが大半。ある裁判では、空港のトイレで産み落とした赤ん坊を殺害し、遺体を遺棄した女性が境界知能の持ち主。公判中の「殺める」「自首」などの単語が理解できず、薄笑いを浮かべたことに裁判長がいらだつ場面があったという。それが原因で刑が重くなった可能性もあるわけだ。

 知的障害の基準値が自治体によっても違うなど、門外漢には驚くような事実が多数出てくる。

(SBクリエイティブ 990円)

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