もっとも身近で唯一無二の人間関係「家族小説」特集

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「さいわい住むと人のいう」菰野江名著

 遠慮もなく言いたい放題が許される家族という存在。時にぶつかり合い、いがみ合うこともあるが、濃密で深い関係だからこそとも言える。今回は、家族を題材としたミステリーや、激動の生涯を生き抜いた姉妹の物語、そして老親との優しいコミュニケーション術が分かる本まで、家族にまつわる4冊を紹介する。



「さいわい住むと人のいう」菰野江名著

 地域福祉課の新人職員である青年・青葉は、民生委員から香坂桐子という老女を紹介される。元教師の桐子は、80歳を過ぎた今も地域の相談役のような存在であるという。

 桐子の自宅は、まるで宮殿のような豪邸だった。訪ねた青葉を出迎えたのは、ふっくらと丸い頬と笑みをたたえた口元が印象的な老女。彼女は桐子の妹の百合子であると言い、紹介された桐子はにこりとも笑わない無愛想な老女だった。

 ふたりきりで暮らす香坂姉妹の訃報が届いたのは、それからわずか2週間後。あの豪邸で、ベッドに横になった状態で同じ日に亡くなっていたというのだ。

 物語は、20年ずつ遡る形で香坂姉妹の人生を描いていく。ふたりには1歳と3歳で戦争孤児になったという過去があった。そこから豪邸で暮らすまでに何があったのか。

 タイトルはカール・ブッセ「山のあなた」の一節からきている。山の彼方にあるという幸福を追い求めた姉妹の生きざまに胸を打たれる。 (ポプラ社 1870円)

「ダブルマザー」辻堂ゆめ著

「ダブルマザー」辻堂ゆめ著

 1週間前、21歳の娘の鈴が電車に飛び込んで死んだ。母である馬淵温子はいまだに現実として受け入れられていない。損傷が激しいからと、顔の右半分しか見せてもらえなかったからかもしれない。

 そんなとき、遺品である鈴のショルダーバッグから、鈴のものとは別のスマホと財布が見つかる。財布の中には学生証が入っており、柳島詩音という音大生のものらしい。温子は詩音の自宅とおぼしき番号に電話をかけてみる。すると母親が応対し、スマホと財布を引き取りに来るという。

 ところが、やってきた柳島由里枝は、鈴の遺影を見て激高する。

「どうしてうちの娘の写真がこんなところに飾ってあるんですか!」

 詩音は鈴が自殺したのと同じ日から行方不明だという。しかし、お互いに娘の顔を見間違えるはずがない。警察にも相手にされない温子と由里枝は、娘の軌跡をたどり始める。

 ふたりの母を待ち構える真実に心がざらつく衝撃のミステリーだ。 (幻冬舎 1870円)

「歳をとった親とうまく話せる言いかえノート」萩原礼紀著

「歳をとった親とうまく話せる言いかえノート」萩原礼紀著

 よかれと思って言っても衝突ばかり。そんな老親とのコミュニケーションのポイントを〇×形式で解説するのが本書だ。

 たとえば、親のために手間暇かけて作った食事なのに、箸が進まない。このとき「ちゃんと食べてよ!」と言ってしまうのは×。自分が言いたいことだけをぶつけても、反発を招くだけだ。そこで、自分目線ではなく相手目線の言葉に変え、「もしかして、味付けが薄かった?」と言ってみよう。味付けという要因をひとつ提示することで、「実は食材が滑って掴みにくい」「肩が痛くて食が進まない」など、相手のメッセージを引き出すことにつながる。健康を思っての言葉でも「最近太ったね。運動したら?」は×。長年の生活習慣を変えるのは誰でも難しい。〇の言葉は、「私、最近太っちゃった。一緒に散歩してくれない?」だ。ありがたいことに親は“子どもの悩み”にはひと肌脱ぎやすい。

 関係をこじらせる前に知っておきたい家族との会話術。 (ダイヤモンド社 1650円)

「家族」高嶋哲夫著

「家族」高嶋哲夫著

 家族の介護や世話を日常的に行う18歳未満の子どもを指す「ヤングケアラー」を題材としたミステリー。

 雑誌記者の笹山真由美は、若年性アルツハイマーと診断された父の付き添いで病院に来ていた。そこで、無数の管につながれた意識のない少女を目撃する。彼女は、ある事件の容疑者でもあった。

 深夜の住宅で火災があり、焼け跡から3人の遺体が見つかる。死亡したのは母親と祖母、長男。母親の遺体からは複数の刺し傷が見つかり、残る2人には絞殺の痕があった。そして火災の際、長女が家から飛び出して車にはねられ、意識不明となっていた。病院の少女は、この長女だった。

 さらに、長男は重度障害者、祖母は認知症で、看護師の母に代わり長女がひとりで2人の介護をしていたことも明らかになる。ワイドショーやネットでは、長女が3人を殺した殺人犯であるという話題で持ちきりになるが──。

 現代の家族が抱える課題に切り込んだ社会派小説だ。 (角川春樹事務所 1870円)

【連載】ザッツエンターテインメント

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