黒木亮(作家)
3月×日 取材でやって来たエストニアの首都タリンで、ペリメニ(餃子)の夕食。東は日本から西はポーランドに至るまで幅広く愛されるユーラシアの代表食。当地では厚めの皮であんを包み、一口サイズに丸め、蒸してある。醤油ではなく、サワークリームをかけて食す。牛と豚の合挽き肉の旨味が際立つ至福の味わいなり。
伊集院静著「でく」(集英社 1155円)を読む。冒頭から地虫、みみず、羽蟻、鼠、蛇などが自分の指先から現れるアル中の男の幻覚、セックス、ギャンブル、喧嘩の描写の繰り返しで面食らったが、読み進めるうちに、これは伊集院氏の最高傑作ではないかと思う。彼は、妻・夏目雅子を失った後、しばらくこんなふうに暮らしていたのだろうな。
3月×日 タリン旧市街は、石畳の坂道、教会、商館跡など、ハンザ同盟が隆盛だった13~17世紀の風景がそのまま残っていて、世界遺産。ホテル代は日本の半分程度、食事も日本より多少安いので、円安に泣く日本人旅行者もたくさん来ている。
午後、ソ連時代に建てられた23階建ての高層ホテルにあったKGB(ソ連の諜報機関)のスパイ部屋を見学。ここで客の動向を監視していたが、エストニアが主権を回復した1991年8月20日、慌てて逃走し、夥しい書類、無線機、テープレコーダー、隠しカメラなどを残して行ったという。ロシアに妙に気をつかう米国のトランプ大統領も、こんなふうに弱みを握られたのではなかろうか。
市内にはソ連時代の建築物も多く、20世紀の光と影を感じる。
篠田航一著「コナン・ドイル伝」(講談社 1210円)を読む。ロンドンに駐在した新聞記者が、ドイルの作品を読み込み、英国の研究者などにインタビューをして書き上げた労作。ドイルの人物像を通して、時代背景もよく分かって楽しめる。物書きにとっては、こうやってベストセラーを書くのかと勉強にもなった(なかなかその通りにはできないが…)。



















