「不惑」をはるかに過ぎても…シニアが主人公の文庫本特集
「よき時を思う」宮本輝著
40歳は「不惑」と言われるが、70歳、80歳まで生きるのがふつうとなった今では、還暦や古希を過ぎても惑い続ける人も少なくない。「シニアだって人間だもの」とつぶやきたくなるような作品を紹介しよう。
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「よき時を思う」宮本輝著
金井綾乃は四合院造りという中国建築の家に住んでいる。ある日、父方の祖母、徳子の90歳の誕生日に、徳子が欲しがっていたゲランの香水を贈ると、お礼状が届く。その中に、16歳のときに死のうと決めて短刀を手にしたことがあると書かれていた。だが、ゲランの香水をつけて、「よき時を思いました」とも書いている。
徳子は16歳で京大の学生と結婚したが、夫はその2週間後に出征し、沖縄近くの海で戦死した。その後、徳子は師範学校で学んで教師になり、再婚して3人の子を育てながら定年まで働いた。
その徳子の90歳の祝いに350万円もかけて晩餐会を開くことになった。
苦難と情熱に満ちた祖母の人生に向かい合い、彼女の「よき時」を思う家族の物語。
(集英社 1034円)
「ハレー彗星の館の殺人」ロス・モンゴメリ著 村山美雪訳
「ハレー彗星の館の殺人」ロス・モンゴメリ著 村山美雪訳
1910年5月、少年院を出たスティーブンは、従僕の仕事を紹介されて子爵の館にやってきた。この日はハレー彗星が地球に到達する日で、子爵は彗星が放つという毒ガスを恐れ、家族や従僕、招待客を窓を板でふさいだ部屋に閉じ込めようとしていた。
スティーブンは子爵の叔母、79歳のデシマの部屋で彼女の世話をするよう命じられる。それはメイドのテンペランスの役目だったが、デシマにいじめられて外されたのだ。デシマはスティーブンを連れて森へ彗星を見に行った。
翌朝、スティーブンは子爵の部屋で彼の死体を発見する。デシマはスティーブンに「われわれはこの混沌とした状況をすっきりとはらさなければ」と言明する。
老嬢と従僕が殺人事件の謎を解くミステリー。 (KADOKAWA 1540円)
「虹の岬」辻井喬著
「虹の岬」辻井喬著
住友本社の次期総理事と目されていた川田順は54歳で退職、新聞の短歌欄の選者や皇太子の作歌指導などをしていた。大学の名誉教授が主催する歌の会で、川田は京大教授の妻、森祥子と出会う。
祥子は北陸地方の寺に生まれ、母の勧めで、寺に下宿していた国立大学の学生、森三之助と17歳で結婚した。祥子にとって森は兄のようなものだった。2人の間には娘が生まれ、その娘ももう結婚している。
歌の会で川田の作品に惹かれた祥子は、帰り道で「時々、会ってくださるだけでいいんです」と川田に言った。口に出してしまうと涙があふれてきた。弟子は取らないと言ったものの、川田は祥子に惹かれるようになる。
財界人で、歌人としても知られた川田順と京大教授夫人の「老いらくの恋」を描いた小説。 (中央公論新社 1430円)
「美人薄命」深水黎一郎著
「美人薄命」深水黎一郎著
大学生の礒田総司はひとり暮らしの高齢者に弁当を配達するボランティアをしている。古ぼけた木造アパートに住む84歳の内海カエは総司を「よかおのこ」だと褒め、「わしがあと二つくらい若かったら、ほっとかねえかもよ」と言った。
若い頃、五十治という恋人がいたが、一緒になれず、先妻の子どもがいる男の後妻になった。姑に厭われて離縁となり、同級生の洋裁店で働いて生きてきたという。
ある日、カエのアパートが火事になり、総司は倒れていたカエを抱いて助け出した。総司が若い頃のカエが出てくる夢を見た翌日、カエは死んだ。1週間後、カエの弁護士から電話があった。
大学生が孤独な老女の人生に触れるミステリー。 (双葉社 825円)



















