著者のコラム一覧
碓井広義メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。81年テレビマンユニオンに参加。以後20年、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶應義塾大学助教授などを経て2020年3月まで上智大学文学部新聞学科教授。専門はメディア文化論。著書に「倉本聰の言葉―ドラマの中の名言」、倉本聰との共著「脚本力」ほか。

テレ東「マツコ、昨日死んだってよ。」は“テレビ論”の試み

公開日: 更新日:

 最近よく言われる「元気なテレビ東京」を象徴するような1本だった。5月29日の深夜に放送された「マツコ、昨日死んだってよ。」だ。なんと「マツコ・デラックスが急死した」という大胆な設定で進行する異色のバラエティだった。

 いきなりニュースで訃報が伝えられ、街の声やYOU、ミッツ・マングローブなどのコメントが流される。スタジオに置かれた棺には白い衣装のマツコが横たわり、ナビゲーター役の滝藤賢一が「追悼番組」を進行させていく。ちなみにマツコは「棺に入る」以外は聞かされていないという。

 そこから展開されたのは結構鋭い「マツコ論」だ。自らを「電波芸者」と認識し、テレビというメディアが期待する「マツコ」を披露し続けてきたマツコ。その人気の核には、閉塞社会における「違和感の表明」があったことを指摘していく。

 さらに「追悼番組」の終了後、突然滝藤がスタッフやカメラ(視聴者)に向かって、「お前らがマツコを殺した!」と怒り出した。続けて「死に顔を撮れよ!これが見たかったんだろ!」と。この辺りから「マツコ論」というより「テレビ論」の様相を呈していく。

 そう、これはテレビによる「テレビ論」の試みだったのだ。「これからは枠にとらわれず、不都合に蓋をせず、多様化していかなければ」という滝藤の最後の言葉は、まさに制作側の決意だ。

(上智大学教授・碓井広義=メディア文化論)

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    武田鉄矢「水戸黄門」が7年ぶり2時間SPで復活! 一行が目指すは輪島・金沢

  2. 2

    生田絵梨花は中学校まで文京区の公立で学び、東京音大付属に進学 高3で乃木坂46を一時活動休止の背景

  3. 3

    未成年の少女を複数回自宅に呼び出していたSKY-HIの「年内活動辞退」に疑問噴出…「1週間もない」と関係者批判

  4. 4

    2025年ドラマベスト3 「人生の時間」の使い方を問いかけるこの3作

  5. 5

    2025年は邦画の当たり年 主演クラスの俳優が「脇役」に回ることが映画界に活気を与えている

  1. 6

    真木よう子「第2子出産」祝福ムードに水を差す…中島裕翔「熱愛報道」の微妙すぎるタイミング

  2. 7

    M-1新王者「たくろう」がネタにした出身大学が注目度爆上がりのワケ…寛容でユーモラスな学長に著名な卒業生ズラリ

  3. 8

    松任谷由実が矢沢永吉に学んだ“桁違いの金持ち”哲学…「恋人がサンタクロース」発売前年の出来事

  4. 9

    高市政権の積極財政は「無責任な放漫財政」過去最大122兆円予算案も長期金利上昇で国債利払い爆増

  5. 10

    農水省「おこめ券」説明会のトンデモ全容 所管外の問い合わせに官僚疲弊、鈴木農相は逃げの一手