著者のコラム一覧
碓井広義メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。81年テレビマンユニオンに参加。以後20年、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶應義塾大学助教授などを経て2020年3月まで上智大学文学部新聞学科教授。専門はメディア文化論。著書に「倉本聰の言葉―ドラマの中の名言」、倉本聰との共著「脚本力」ほか。

2019年ドラマ総括 SNS全盛期の想像力と距離感がキーワード

公開日: 更新日:

 令和元年も残り1週間となった。この1年、世の中は傲慢政権のほころびが目立つばかりで、あまりいいことがなかったような気がする。将来、単なる「オリンピックの前の年」と言われそうだが、さて、ドラマ界はどうだったのか。

 まず1月クール。強い印象を残したのが、菅田将暉主演「3年A組―今から皆さんは、人質です―」(日本テレビ系)だ。

 男が突然、高校に立てこもる。武器は爆弾。人質は3年A組の生徒全員。しかも犯人の柊(菅田)は担任教師だ。事件の背後に水泳の五輪代表候補だった澪奈(上白石萌歌)の自殺があった。ドーピング疑惑で騒がれ、周囲から陰湿ないじめを受けていたのだ。柊はさくら(永野芽郁)ら生徒たちに、「なぜ澪奈は死んでしまったのか、明らかにしろ」と迫る。

 やがて澪奈の水着を切り刻んだり、自宅に投石したりしたのが香帆(川栄李奈)であることが判明。柊は香帆に言う。「自分が同じことをされたらどんな気持ちになるか、想像してみろ」と。実は「想像力」こそ、このドラマのキーワードだ。

 物語の中では、これでもかというほどネットやSNSの“負の威力”が描かれていた。確かにスマホは便利だが、この手のひらの中のパソコンは、使い方によっては自身の思考を停止させてしまう。同時に他者の人生を破壊することさえ可能だ。このドラマはこの凶器の危うさを徹底的に暴いてみせた。

 ただの立てこもり事件と思わせておいて、徐々にドラマの意図を明かしていったオリジナル脚本は武藤将吾。迫真の演技の菅田と共に、このドラマを成功へと導いた立役者だ。

 4月クールでは、吉高由里子主演「わたし、定時で帰ります。」(TBS系)が出色だった。原作は朱野帰子の同名小説。脚本は奥寺佐渡子と清水友佳子である。

 32歳の結衣(吉高)が勤務するのは、企業のサイトやアプリを制作する会社だが、10年選手の彼女は残業をしない。「会社の時間」と「自分の時間」の間に、きちんとラインを引いている。モーレツ社員だった父の姿や、かつての恋人だった種田(向井理)が過労で倒れたことなどから、無用な働きすぎを警戒し、定時で帰ることをポリシーとしているのだ。とはいえ、その働き方には工夫があり、極めて効率的だった。

 当然、周囲との軋轢はある。たとえば部長の福永(ユースケ・サンタマリア)は、結衣の「働き方」に皮肉を言い続けていた。しかし、はじめは冷ややかに見ていた周囲の人たちも、物語の進行と共に徐々に変わっていく。最終回、結衣が部下たちに言う。「会社のために自分があるんじゃない。自分のために会社はある」と。

 このドラマは、「働き方」を考えることは自分の「生き方」を見直すことでもあることを、重すぎず軽すぎないストーリーと人物像で描いて見事だった。

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