著者のコラム一覧
碓井広義メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。81年テレビマンユニオンに参加。以後20年、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶應義塾大学助教授などを経て2020年3月まで上智大学文学部新聞学科教授。専門はメディア文化論。著書に「倉本聰の言葉―ドラマの中の名言」、倉本聰との共著「脚本力」ほか。

2019年ドラマ総括 SNS全盛期の想像力と距離感がキーワード

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主人公が変わることで周りも変わっていく

 黒木華主演「凪のお暇」(同前)が登場したのは7月クールだ。凪(黒木)は28歳の無職。職場の同僚や恋人(高橋一生)との間で、「空気を読む」ことに疲れた彼女が、「人生のリセット」を試みる物語だった。コナリミサトの同名漫画が原作で、脚本は大島里美だ。

 人がストレスを感じる大きな要因は人間関係にある。このドラマでは、そこから逃げるのではなく、「お暇」という形をとったところが秀逸だった。

 抱えている課題や問題はいったん脇に置き、それまでの自分、それまでの対人関係などと、時間的・空間的な距離をとってみる。そんな「自分を見つめ直すプロセス」を描いていた。もちろん、人はすぐには変われない。しかし、本来の自分、素の自分というものに「気づいたこと」が大きかったのではないか。そのことで少しずつ主人公が変わり、周りの人間も変わっていく。気づくことで生まれる「リセットパワー」。このドラマの醍醐味はそこにあった。

 10月クールの注目作は、高畑充希主演「同期のサクラ」(日本テレビ系)である。10年前、主人公のサクラ(高畑)は、故郷の離島に橋を架ける仕事がしたいと大手建設会社に入社した。だがドラマの冒頭、なぜか彼女は入院中で、脳挫傷による意識不明の状態だった。見舞いにやってくるのは清水菊夫(竜星涼)や月村百合(橋本愛)といった同期の仲間だ。10年の間に一体何があったのか。その謎が徐々に明かされていくという仕掛けだ。

 このドラマの最大の特色は、ヒロインであるサクラの強烈な個性にある。普段はほとんど無表情。おかっぱ頭にメガネ。一着しかない地味なスーツを寝押しして使っている。加えて性格は超がつく生真面目で、融通が利かない。正しいと思ったことはハッキリと口にするし、相手が社長であっても間違っていれば指摘する。場の「空気」を読むことや、いわゆる「忖度」とも無縁だ。そのため社内で徹底的に疎まれ続ける。

 サクラというキャラクターは明らかに難役だ。しかし高畑は荒唐無稽の一歩手前で踏みとどまり、独特のリズム感と演技力によってサクラにリアリティーを与えていた。本来はまっとうであるはずのサクラが、どこか異人に見えてしまう組織や社会。また、すべてを常識という物差しで測ろうとする現代人。サクラと同期たちが過ごした10年には、私たちが物事を本質から考え直すためのヒントが埋め込まれていた。

 脚本は遊川和彦(「家政婦のミタ」など)のオリジナルだ。来る2020年、漫画や小説が原作のドラマだけでなく、ドラマでしか出合えない秀作が一本でも多く出現することを期待する。

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