著者のコラム一覧
SALLiA歌手、音楽家、仏像オタク二スト、ライター

歌って作って踊るスタイルで話題を呼び、「イデア」でUSEN 1位を獲得。2018年より仏像オタクニストの活動を始め、初著「生きるのが苦しいなら」は紀伊國屋総合ランキング3位を獲得。近著に「アラサー女子、悟りのススメ。」(オークラ出版)がある。

ADHD抱える能楽師が明かす「俺の家の話」は私の話みたい

公開日: 更新日:

ドラマを見ているうちに、あれは『俺の話』だと思うようになったんです」

 こう語るのは、重要無形文化財「能楽」保持者(総合認定)で金剛流最古の職分家である今井家七代目・今井克紀さん(49)。

 現在放送中の連続ドラマ「俺の家の話」(TBS系)は、「介護」「プロレス」「能」をうまく絡めた、新しい「ホームドラマ」としても話題となっているが、3月5日放送の第7話では、能の宗家である観山家の長男・寿一(長瀬智也)の息子である秀生(羽村仁成)の親権をめぐって一波乱起きた。

 秀生は発達障害を抱えているが、寿一が観山家に戻ったことを契機に能で才能を発揮し、今では寿一と家元である寿三郎(西田敏行)の父子の縁を繋ぐ役割となっている。

 そしてそんな秀生を「まるで自分のようだ」と今井さんは言う。

「私も寿一のように、2歳から稽古を始め、3歳で初舞台に立ちました。成長期で背が急激に伸びて腰が安定しなかったり、声変わりで一旦離れたりする場合もありますが、私の場合は一度も能から離れることなく、ここまでずっと続けることができました。寿一と秀生のように私も13歳の時、師でもある父と一番ずつ能を舞った日のことは今でもよく覚えています」

「将来、能楽師になると決めていたので当然父は厳しかったですが、秀生のように私もとにかく能が好きだったのと、周りに期待してもらっていたので、寿一のように反発することもなく、他の道に行こうと思ったこともありませんでした」

小数点の割り算をどれだけ頑張ってもできない

 ただ、今井さんは子どもの頃から小数点の割り算の計算だけがどんなに頑張ってもできなかったり、ランドセルをよく忘れたり、「なぜ皆が当たり前にできていることが出来ないのか」と思い悩むことがしばしばあったという。

「でも、能の稽古はすごい集中力でできるし、本番の舞台もミスなくできる。だから実は”ADHD“を抱えていたということに、私も周りも長年、気づかないままだったんです」

 そしてそれは、父との関係にも大きな影響を与えた。

「大切な申し合わせ(通し稽古)で、大事な小道具をちゃんとした形で用意するのを忘れていたことがありました。父はこれまで見たこともないほど怒りの表情と感情をあらわにし、その後8年間まともに稽古もつけてもらえず、口も聞いてもらえませんでした。しかし数年前、私が体調を崩したことをきっかけに調べたらADHDだったことが、分かったのです。その時、父が初めて私に『今まで気づいてあげられなくて悪かった』と謝り、親子の縁を結び直すことが出来たんです」

 今井さんは、今までADHDだったことを公表してこなかった。なぜ公表に至ったのか?

「ドラマ『俺の家の話』で、能とADHDを知ってくださった方も多いと思います。能は普遍的な題材と人間の心理を表現するもの。さまざまな芸能に影響を与えた、古典芸能でもあり、だからこそ奥深いのです。私はADHDがあったからこそ、大好きな能に思い切りメーターを振り切ることが出来た。生きづらさもありましたが、能という生き生きできる場所があったおかげで生きてこられました。ADHDと能が”与えてくれたもの“はきっと私にしか発信できない。そう思って公表することにしました」

 今井さんの「俺の話」は、多くの人の希望になり得るだろう。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    亡き長嶋茂雄さんの長男一茂は「相続放棄」発言の過去…身内トラブルと《10年以上顔を合わせていない》家族関係

  2. 2

    朝ドラ「あんぱん」豪ちゃん“復活説”の根拠 視聴者の熱烈コールと過去の人気キャラ甦り実例

  3. 3

    上白石萌音・萌歌姉妹が鹿児島から上京して高校受験した実践学園の偏差値 大学はそれぞれ別へ

  4. 4

    “名門小学校”から渋幕に進んだ秀才・田中圭が東大受験をしなかったワケ 教育熱心な母の影響

  5. 5

    「時代と寝た男」加納典明(17)病室のTVで見た山口百恵に衝撃を受け、4年間の移住生活にピリオド

  1. 6

    中居正広氏に降りかかる「自己破産」の危機…フジテレビから数十億円規模損害賠償の“標的”に?

  2. 7

    “バカ息子”落書き騒動から続く江角マキコのお騒がせ遍歴…今度は息子の母校と訴訟沙汰

  3. 8

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?

  4. 9

    「こっちのけんと」の両親が「深イイ話」出演でも菅田将暉の親であることを明かさなかった深〜いワケ

  5. 10

    長嶋一茂が父・茂雄さんの訃報を真っ先に伝えた“芸能界の恩人”…ブレークを見抜いた明石家さんまの慧眼

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    上白石萌音・萌歌姉妹が鹿児島から上京して高校受験した実践学園の偏差値 大学はそれぞれ別へ

  2. 2

    大谷 28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」とは?

  3. 3

    学力偏差値とは別? 東京理科大が「MARCH」ではなく「早慶上智」グループに括られるワケ

  4. 4

    ドジャース大谷の投手復帰またまた先送り…ローテ右腕がIL入り、いよいよ打線から外せなくなった

  5. 5

    よく聞かれる「中学野球は硬式と軟式のどちらがいい?」に僕の見解は…

  1. 6

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?

  2. 7

    進次郎農相の「500%」発言で抗議殺到、ついに声明文…“元凶”にされたコメ卸「木徳神糧」の困惑

  3. 8

    長嶋茂雄さんが立大時代の一茂氏にブチ切れた珍エピソード「なんだこれは。学生の分際で」

  4. 9

    (3)アニマル長嶋のホームスチール事件が広岡達朗「バッドぶん投げ&職務放棄」を引き起こした

  5. 10

    米スーパータワマンの構造的欠陥で新たな訴訟…開発グループ株20%を持つ三井物産が受ける余波