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大高宏雄映画ジャーナリスト

1954年浜松市生まれ。明治大学文学部仏文科卒業後、(株)文化通信社に入社。同社特別編集委員、映画ジャーナリストとして、現在に至る。1992年からは独立系を中心とした邦画を賞揚する日プロ大賞(日本映画プロフェッショナル大賞)を発足し、主宰する。著書は「昭和の女優 官能・エロ映画の時代」(鹿砦社)など。

3度目宣言発令へ 劇場版・名探偵コナン“興収100億円”は?

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興収100億円超えの手応えはあるが…

「名探偵コナン 緋色の弾丸」が公開される前、配給を担当する東宝の関係者から、「(興行収入)100億円超えの手応えは十分にある。懸念は、新型コロナウイルスの影響だけだ」という話を聞いていた。2年ぶりシリーズ最新作へのこれまで以上の大きな期待感、現実のリアクションとして、前売り券の販売枚数が相当数であったことなどから、そのような分析に至ったのだろう。ただ、その時点でも感染拡大は、じわりじわりと迫ってきており、懸念も感じとった上での発言だったと思う。

 100億円に向けた上映体制(回数)は万全だった。メイン館の一つ、TOHOシネマズ新宿は、初日(4月16日)に計43回の上映を行った。同館としては、何と「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の42回を超えたのである。近隣の新宿ピカデリーも初日に20回を超えた。他のシネコンも、当然、圧倒的な回数で映画を回した。その上映体制が、やはり興行に絶大な効果を見せたといえる。

 オープニング3日間は、まさにロケットスタートで、全国動員153万3000人、興収22億2000万円を記録した。3日目に都内の映画館で見た筆者は、久しぶりの定番タイトルロールに涙し(ここは毎回泣ける)、多くの登場人物たちが、一体感をもってコナンの奮闘に加わっていく劇構成に満足した。若い男女からその上の世代、ファミリー層まで実に幅広い客層がいつもどおりで、妙な安心感があったのである。

■3度目の緊急事態宣言でどうなる?

 さて公開から1週間以上が経ち、感染状況は深刻さを増してきた。4月23日、政府は東京、大阪、兵庫、京都の4都府県に緊急事態宣言を発令することを決めた。その期間は、4月25日から5月11日まで(予定)とのことである。休業要請は、酒類を出す飲食店はじめ、百貨店、テーマパーク、大型商業施設などとしている(23日現在)。大型商業施設は1000平方メートル以上の床面積を持つところが対象のようだ。となると、多くのシネコンが含まれることが予想される。ミニシアターなどはどうなるかわからないが、たとえ上映スクリーンが少なくても、商業施設全体が1000平方メートル以上を超えていれば、施設全体が休業を求められるため、中に位置するミニシアターや映画館も対象となるかもしれない。

 全国公開規模の作品1本が公開された場合、大阪では全体興収の約10%を占めるといわれている。兵庫、京都も加わると、3府県トータルで約15%の興収が丸々なくなる計算になる。もちろん、作品によって興収シェアは違うのであくまで推定の数値ではあるが、30%近いシェアを持つ東京がここに入るとなると、もはや興行自体が成立しづらい状態になってしまう。そこまで休業が広がると、本来の半分ぐらいにまで興収が落ちてしまうのである。

 休業要請に対し、シネコンを擁する各興行会社がどの程度従うのかどうかは、23日時点では未定である。しかし、従う際の協力金はしっかりと担保しておかないと大変なことになってしまう。関係者、現場の人たちの混乱ぶりは想像に余りある。

悲惨な状況の二の舞になりかねない

 21日、映画館の団体である全国興行生活衛生同業組合連合会(全興連)は、映画館の営業持続の意志を明解にして政府に陳情書を出した。そこでは、座席数制限や時短営業などの提案もし、支援の必要性も訴えた。ミニシアター支援を続けるプロジェクト「SAVE the CINEMA」に賛同する映画人たちも同日、国会議事堂前で映画館休業要請への反対、そうなったときの補償などの確約を求めてアピールした。

 映画館の存続、働く従業員のことを考えて、言うべきことは言わないといけない。当然のことである。ミニシアターなどの小規模映画館は現在、依然として厳しい状況が続いていると聞く。今回の宣言の中身次第では、映画館の大小関係なく、全国的に映画館が休業となった昨年の同時期のようなことになりかねない。これを一番危惧する。

「名探偵コナン 緋色の弾丸」は、冒頭の東宝関係者が言った「懸念」が現実味を帯びてきたと思う。もちろん、それは本作ばかりではなく、多くの作品を抱える配給会社、上映する映画館、関係会社、従業員をめぐる話でもある。

■クレヨンしんちゃん、ジブリの新作は公開延期決定

 すでに、4月23日公開の「映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園」、29日公開の「アーヤと魔女」の延期が決まった。これに続く延期の検討の動きがあるとの情報も入ってきた。単館系作品が多い某洋画配給会社は、現在上映している作品が映画館の休業で途切れたら、もはや再上映の道はないので、一気に配信へ出す可能性も示唆している。その方向性は、この会社だけの話ではないだろう。配信の流れも、さまざまな形で進行するかもしれない。

 映画から少し離れるが、いつも感じるのは感染拡大を防ぐ措置と、経済を動かすことの兼ね合いの難しさである。加えて、逼迫する医療現場の問題がある。この思いは多くの人たちが感じることであり、いつもそこに行き着く。そう感じつつ、1年以上が過ぎたのである。その兼ね合いの道筋を政府や自治体が明確に示せない以上、多くのしわ寄せがこれまでと同じように国民にくることになる。

 個人レベルでは、及びもつかないとてつもない負の力、負の連鎖が、この国を飲み込んでいるがごときである。「国のかたち」そのものを真剣に考える人も多いに違いない。まさに普通の人が、そのことを考え始めたのではないか。ただ諦めてはいけない。この国に住んでいる一人として、この国を諦めてはならないと強く思う。

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