主演作「ファーザー」アンソニー・ホプキンスの怪優際立つ

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「お父さん、お父さん!」

 ヘッドホンで音楽を聴いていると、ひとり暮らしの部屋へ怒った顔の娘アンが入ってくる。

「何の用だ」

「何だと思う?」

 アンソニー・ホプキンス(83)が第93回アカデミー賞で史上最高齢の主演男優賞に輝いた映画「ファーザー」の冒頭。介護士アンジェラから電話があり、「くそアマ」などと暴言を吐かれた揚げ句、身体的な脅しを受けたと涙ながらの訴えがあったと娘は追及する。

あの女は狂ってる。辞めさせて当然、ましてや盗っ人だ。罠を仕掛けて置いた私の腕時計がなくなっているぞ」

「どこに置いたの」

「さぁ」

 語気を荒らげて、反論するが、肝心なところで忘れたり、分からなくなる。ホプキンスが演じる自分と同じ名前で同じ誕生日の父親は軽くない認知症で、認知症であるということも認知していない。原作は世界30カ国以上、日本では橋爪功主演で上演された舞台だ。

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