著者のコラム一覧
山田勝仁演劇ジャーナリスト

二兎社「鴎外の怪談」現代に通じる“知識人”鷗外の苦悩と葛藤

公開日: 更新日:

「この次から気をつけるというんじゃダメか?」

 山県邸に行って幸徳らの刑の執行を止めようとする鷗外に向かって賀古が言う。

 要するに、今回の事件はもう終わったことにして、これ以上この国がひどくならないように「次」こそは正しく物言おうと鷗外に日和見を促す言葉だ。

 100年後の現在、自衛隊の海外派遣、原発、改憲、モリカケ疑惑など戦後の日本の根幹に関わる問題に対して、巨大与党の前になすすべなく手をこまねいている知識人や国民。それは大逆事件に対処した鷗外が結局は抗議の直接行動が出来ずに内心で悩む姿と同じではないか。

 鷗外の不安な心象に響くのは愛し合いながらも別れさせられた恋人・エリスの悲痛な叫び。鷗外は海外の怪談を紹介するほか、自分でも多くの怪談を執筆したが、実は鷗外の二面性そのものが「怪談」だったのではないか。心に生じる不協和音に懊悩する鷗外を松尾が見事に演じ切った。

 ほかに、大逆事件に連座した大石誠之助に関わりのある女中役で木下愛華。

 12月5日まで池袋、東京芸術劇場・シアターウエスト。その後、全国を巡演。

 ★★★★

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    亡き長嶋茂雄さんの長男一茂は「相続放棄」発言の過去…身内トラブルと《10年以上顔を合わせていない》家族関係

  2. 2

    上白石萌音・萌歌姉妹が鹿児島から上京して高校受験した実践学園の偏差値 大学はそれぞれ別へ

  3. 3

    「時代と寝た男」加納典明(17)病室のTVで見た山口百恵に衝撃を受け、4年間の移住生活にピリオド

  4. 4

    中居正広氏に降りかかる「自己破産」の危機…フジテレビから数十億円規模損害賠償の“標的”に?

  5. 5

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?

  1. 6

    “バカ息子”落書き騒動から続く江角マキコのお騒がせ遍歴…今度は息子の母校と訴訟沙汰

  2. 7

    “名門小学校”から渋幕に進んだ秀才・田中圭が東大受験をしなかったワケ 教育熱心な母の影響

  3. 8

    女子学院から東大文Ⅲに進んだ膳場貴子が“進振り”で医学部を目指したナゾ

  4. 9

    「こっちのけんと」の両親が「深イイ話」出演でも菅田将暉の親であることを明かさなかった深〜いワケ

  5. 10

    長嶋一茂が父・茂雄さんの訃報を真っ先に伝えた“芸能界の恩人”…ブレークを見抜いた明石家さんまの慧眼

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?

  4. 4

    上白石萌音・萌歌姉妹が鹿児島から上京して高校受験した実践学園の偏差値 大学はそれぞれ別へ

  5. 5

    “名門小学校”から渋幕に進んだ秀才・田中圭が東大受験をしなかったワケ 教育熱心な母の影響

  1. 6

    大阪万博“唯一の目玉”水上ショーもはや再開不能…レジオネラ菌が指針値の20倍から約50倍に!

  2. 7

    今秋ドラフト候補が女子中学生への性犯罪容疑で逮捕…プロ、アマ球界への小さくない波紋

  3. 8

    星野源「ガッキーとの夜の幸せタイム」告白で注目される“デマ騒動”&体調不良説との「因果関係」

  4. 9

    女子学院から東大文Ⅲに進んだ膳場貴子が“進振り”で医学部を目指したナゾ

  5. 10

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも