桂二葉が女性初の「NHK新人落語大賞」受賞! 演芸評論家・渡邉寧久氏が厳選する“女流落語家”

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律歌は「志ん朝師匠って誰ですか?」

 2021年暮れに発表された「NHK新人落語大賞」の大賞。上方の落語家、桂二葉(かつら・によう=35)が輝いた。

 同賞創設以来、初めて女性が手にした大賞。「女性初」とはやすメディアのアプローチは時代がついた表現だなと笑えば済むが、男性優位社会に切り込んだ勇者、という構図に落とし込もうとする報道には鼻白むしかない。男性落語家を男性落語家とは呼ばない。女性落語家、女流落語家という呼称を封印していいほど、女性があたり前に活躍しているのが落語界だ。

 2022年3月下席に、落語協会(柳亭市馬会長)に新真打ち4人が誕生する。内訳は男女半々である。

 三遊亭歌る多門下の三遊亭美るく改め三遊亭律歌(りっか=42)はリケジョで、IT企業からの転身組。入門は27歳と、その世界では遅めになる。

 落語の知識が希薄なまま入門したため、古今亭菊之丞に稽古をつけてもらっている際、「(古今亭)志ん朝師匠って誰ですか?」という“迷言”を吐いた逸話の持ち主だ。啖呵を切る噺、例えば「天災」で八五郎が「くそったれ大家!」という場面などで身震いするそうで、披露興行用に現在「子別れ」を仕込み中。

 同時昇進する春風亭ぴっかり☆改め蝶花楼桃花(ちょうかろう・ももか=40)は美るくと同期で、前座のころからお互いに愚痴を言い合う仲だった。

 師匠・春風亭小朝や兄弟子の薫陶を受け、稽古を積んだところで手に入らない持ち前の華を武器に育った。高座に登場するだけで、周囲を明るくする存在だ。

「大人AKB」オーディションの最終審査に残り、芸能ニュースになったこともあった。女優活動にも力を入れ、落語家枠にとらわれない。最近は、高座に出ると「おばちゃんですから」とちょっと自虐ぎみに、年齢を逆手に笑いを取る。持ち前の芸達者な部分を押し出すネタとしてこの頃、桂文枝作「涙をこらえてカラオケを」を頻繁にかけている。アリスや小泉今日子中森明菜の歌を披露する場面もあるキャッチーな噺で十八番に育つ気配だ。

林家つる子の武器はキレのいい“べらんめえ調”

 2人のすぐ先には、「影の人事課」や「コンビニ参観」などで新作のフィールドを独走中の弁財亭和泉(45=美るくの姉弟子)、そのまた先には、持ち前の歌のうまさを発揮することで「稽古屋」などの古典に鮮やかな新風を吹き込んでいる柳亭こみち(47)がいる。

 一方、新真打ちの背中を追う側には、冒頭の「NHK新人落語大賞」ファイナリストの林家つる子(34)や春風亭一花(34)らがいる。

 つる子は、言葉のキレのいい口調が武器で、べらんめえ調の町人口調にも、何ら違和感を覚えない。高スキル所持者だ。

「NHK新人落語大賞」の決勝では表情豊かに「お菊の皿」で勝負をかけたが、普段は人情味のある「ねずみ」や女性が火花を散らす「悋気の火の玉」など多彩な話芸を聞かせる。

 一花は鼻濁音が特段に美しく、それだけで心地よくなる聞きやすさだ。

 師匠・春風亭一朝が何かを弟子に伝えるときの枕ことばに「一度しか言わないから」があるという。その言葉に緊張しながらの前座修業を送り、「ほどを見つけること」「出しゃばらないこと」「何事にも間があること」を学んだ。師匠直伝の「植木のお化け」などにも果敢に挑む有望株だ。

三遊亭遊かりは芸協の“要注意落語家”

 落語協会の伸び盛りに行を費やしたが、落語芸術協会(春風亭昇太会長)に転じてみれば、この落語家は“要注意落語家”として見落とせない。三遊亭遊かり(48)だ。入門が遅く、まだピカピカの二つ目。なぜ“要注意”なのか。どちらへ転がっていくのか分からない危険性が、何とも魅力的だからである。古典もやる。オーソドックスな古典もあれば、変則気味の古典もある。新作もやる。その先を常に模索する高座は、今年度の「第32回北とぴあ若手落語家競演会」でかけた「ちりとてちん」で奨励賞を受賞したことで、一定の成果を見せた。客席を笑わせたいという圧は見事で、そこに居合わせれば逃れられない吸引力は、誰もが持てるものではない。

 他にも多くの才、例えば「毎日が安全日」の決めゼリフで高座を始める上方の飛び道具、桂ぽんぽ娘(42)といった逸材がいるが、続きは寄席や落語会で!

▽渡邉寧久(わたなべ・ねいきゅう) 新聞社文化部記者・次長、テレビ局エンタメサイト編集長を経て演芸評論家に。東京新聞に「寄席演芸の人びと」、演芸情報誌「東京かわら版」に「演芸ノ時間」などを連載中。別冊太陽スペシャル「十代目柳家小三治」(平凡社)を企画・執筆した。文化庁芸術祭審査委員、芸術選奨選考委員、浅草芸能大賞専門審査会委員などを歴任。ビートたけしが名誉顧問を務める「江戸まちたいとう芸楽祭」(台東区主催)の委員長を務める。

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