俳優・斉藤暁さん 酒で思い出す子供時代「やかんで日本酒の量り売りを買いに行かされた」

公開日: 更新日:

斉藤暁さん(俳優/68歳)

 これから順次公開されるアニメ映画「とんがり頭のごん太」で震災に遭った犬の飼い主の声を演じています。5月には故郷でもある福島の舞台挨拶に行ってきました。終わってから監督と僕とスタッフの4人で、地酒が置いてある店で一杯やってきました。

 僕が好きな「飛露喜」と「國権」、それから名前を忘れたけどもうひとつ。やっぱり飛露喜はおいしかったですね。つまみはチャーシューみたいなお肉と山菜、季節ですからね。ただ、日本酒は酔っぱらうから油断できません。必ず同量のお水をいただいて飲むようにしています。

■東北電力の技術者だった父

 酒で思い出すのは親父ですね。東北電力に勤める電気工事の技術者でしたが、途中で会社を辞めて人を雇って電気工事協力会社という会社をやっていました。飲むといっても、裕福というわけではないので仕事から帰ってきて家飲みです。僕はそのために酒を買いに行かされましてね。やかんを持たされて。日本酒の量り売りです。今思い出してもいい時代だったなと思います。

 親父は飲んだくれて暴れたり家族につらく当たったりすることはなかった。家族を養うために酒で疲れを癒やしたかったのだと思います。ただ、飲むと暗い。黙々と飲んでいました。76歳で亡くなりましたが、あの鬱屈した飲み方が命を縮めたんじゃないかと思っています。

 困ったのは、息子の人生を力ずくで自分の考えに従わせるような頑固な一面。僕は高校の電気科を出て家の仕事をやらされそうになったけど、それが嫌でね。そんな時に福島中央テレビというUHF局が開局したのですが、勤めていた友だちから照明と大道具の仕事があると誘われて、家を逃げ出しました。

 そしてテレビ局の仕事をしながら、地元・福島の劇団の人と知り合うようになったのが俳優になるきっかけです。同郷の猪熊克芳さんという絵描きさんがいて「田吾作会」という集まりができて、アングラ劇の「黒テント」を呼んだりしました。公演を3本やったかな。その劇団で知り合った大堀文恵さんと二人芝居をやったことで吹っ切れ、結婚して一緒に東京に出てきました。

 すぐに受けたのが串田和美さん(演出家)や吉田日出子さんらの自由劇場の試験です。六本木で見た自由劇場の芝居は目からウロコでした。串田さんはオシャレでセンスがいいし、吉田さんはすごい人、でも怖かったな。ただ、不思議だったのは自由劇場の人は酒をほとんど飲まなかったこと。劇団というと飲んで演劇論を交わすというイメージがあるでしょ。でも、飲まない。仕方なく僕は、劇団の斜め下にあった「あさ開」という店で飲んでましたね。

 よその芝居、例えば唐十郎さんの状況劇場に一度だけゲストで出たことがあります。すごかったですよ。団員の他にマスコミの人も入れて、唐さんは牢名主のような感じで飲んでましたから。それから佐藤慶さん。パルコ劇場の「俊寛」でご一緒した時、主演の佐藤さんのセリフがバーンと飛びましてね。誘われて行ったのが新宿2丁目のバー。佐藤さんは延々と天皇のこととかしゃべり続けまして、気がついたら朝の5時になっていた。自由劇場にはいないタイプの人たちでした。

「スリーアミーゴス」小野武彦に連れていかれた成城の店

 大きかったのはやっぱり「踊る大捜査線」ですね。楽しかった。北村総一朗さん、小野武彦さんと僕の3人の“スリーアミーゴス”はセリフがムック本にも載ったくらいで、僕にとっては大きな財産になりました。

 3人の飲み会は北村さんに誘われて1度だけあります。北村さんは若い時にウイスキーのボトル1本を空けるくらい飲んだ時期があったけど、体を壊してからは飲まなくなったそうです。でも気を使ってくれたんですね。それからは北村さんには申し訳ないと思いながら、小野さんと2人で飲むようにしました。

 実は僕はトランペットが趣味で毎日、練習しないと気が済まない。それを知って小野さんが「サックスを教えてくれないかな」と言ってきましてね。「僕はトランペットですよ」と言ったのですが(笑)。「踊る──」の収録が終わると、小野さんの立派な外車に乗せてもらい、僕の自宅がある東京・狛江の多摩川の橋の下で練習しました。よく2人で「マイ・ボニー」をやったかな。

 それで小野さんが「成城のカラオケの店を予約しておいたから」とよく誘ってくれましてね。その店はマスターがプロのミュージシャンでベースを弾いてくれて、飲みながら演奏したり。それが3、4年続いた。あの時は店に、楽器が好きな俳優仲間が集まり楽しい時間を過ごしました。かけがえのない思い出です。

(聞き手=峯田淳/日刊ゲンダイ)

■アニメ「とんがり頭のごん太ー2つの名前を生きた福島被災犬の物語ー」(監督・脚本/西澤昭男、声/斉藤暁、石川由依、神尾佑) 浪江町の被災犬、ごん太が飼い主と離れ離れになり、神奈川・相模原でピースという名前で生きている。飼い主と保護した大学生、ごん太の命運は……。全国で順次公開。

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