著者のコラム一覧
碓井広義メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。81年テレビマンユニオンに参加。以後20年、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶應義塾大学助教授などを経て2020年3月まで上智大学文学部新聞学科教授。専門はメディア文化論。著書に「倉本聰の言葉―ドラマの中の名言」、倉本聰との共著「脚本力」ほか。

NHK『事件の涙/桐島聡“仮面”の逃亡劇』 桐島の最期の訴えは「自分の名前で最期を迎えたい」

公開日: 更新日:

 昨年1月、神奈川県内の路上で倒れていた男が救急搬送された。内田洋という70歳のがん患者だ。入院から11日後、内田は突然「警察を呼んでくれ」と言い出し、自分の本当の名前は桐島聡だと告白した。しかも、その数日後に死亡してしまう。

 1974年から翌年にかけて発生した連続企業爆破事件。桐島は犯行グループの一人であり、50年近くも逃亡を続けてきた。それがなぜ自ら名乗り出たのか。2月24日に放送された「事件の涙/桐島聡“仮面”の逃亡劇」(NHK)は、その最期の日々に迫っていた。

 番組は桐島の軌跡をたどりながら、どんな人間だったのかを探っていく。

 彼が40年以上も住んでいたアパートにも初めてカメラが入った。残された便箋には「やみだ。やみが人間を創造する」などと記されていた。

 驚いたのは宇賀神寿一が証言したことだ。桐島と同じ「東アジア反日武装戦線/さそり」のメンバーで、二十数年前に刑期を終えて出所している。桐島は真面目で思いやりのある人間だったと回想し、「無名戦士として死にたくなかったのだろう」と語っていた。

 また「自分の名前で最期を迎えたい」という桐島の言葉を聞いた看護師によれば、それは逃亡完遂の勝利宣言などではなく、つらい人の最期の訴えだった。そこにあるのは、真相を明かすことなく逝った指名手配犯が見つめた「闇」の深さだ。

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