著者のコラム一覧
碓井広義メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。81年テレビマンユニオンに参加。以後20年、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶應義塾大学助教授などを経て2020年3月まで上智大学文学部新聞学科教授。専門はメディア文化論。著書に「倉本聰の言葉―ドラマの中の名言」、倉本聰との共著「脚本力」ほか。

小林薫主演『憶えのない殺人』「認知症で身に憶えのない犯行でも罪になるのか」を問うヒューマンミステリー

公開日: 更新日:

 22日夜に放送された特集ドラマ「憶えのない殺人」(NHKBS)。高齢化社会が抱える難題に挑んだ、出色のヒューマンミステリーだった。

 佐治英雄(小林薫)は元警察官。長年、郊外の町の駐在所に勤務してきた。退職後に妻を亡くして今は1人暮らしだが、気がつかないうちに認知症が進んでいた。

 ある日、刑事の北嶺亜弓(尾野真千子)が訪れる。近所で起きた殺人事件の捜査だった。被害者の桧沢肇(西村和泉)は、かつて佐治がストーカー事件で逮捕した男だ。しかも犯行時刻の前後、現場に近いコンビニの防犯カメラに佐治の姿が記録されていたというのだ。

 佐治の混乱と不安が始まる。潔白であることは自分がよく知っている。しかし、認知症で記憶自体が誤ったものだとしたらどうだろう。殺された桧沢に対して憎しみにも似た感情を持っていたことや、正義が正義として通らない世の中に憤りを感じていたことも事実だ。佐治は徐々に自分が信じられなくなっていく。

 今や認知症は珍しいものではない。身に憶えのない犯行でも罪になるのか。一歩間違えると、記憶のない人間に罪をなすりつける冤罪につながるのではないか。視聴中、さまざまな思いが交差した。

 脚本は朝ドラ「あさが来た」などの大森美香によるオリジナル。演出は土曜ドラマ「正義の天秤」などを手掛けてきたベテラン、片岡敬司だ。

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