『わたのまち、応答セヨ』100分の1まで衰退した三河木綿の復活プロジェクトは「逆境」と「奇跡」の物語だった
スクリーンに映し出される女性たちのチャレンジ精神
かつては日本一の繊維の町。数百件の飲み屋と5軒の映画館が軒を連ね、芸者も数多く働き、山ではロープウェーが稼働していたが、今では見る影もない。筆者も九州の田舎町出身だからわかるが、産業や文化が衰退した町は惨めだ。この映画は蒲郡をモデルに日本の地方都市の栄枯盛衰の現実を訴えかけてくる。
ドキュメンタリーは自分の知らない知識や教養を与えてくれる便利なツールだ。筆者は畑で採取した綿花からどのような過程を経て繊維が作られるのかを知らなかったが、この作品で学ぶことができた。また、蒲郡市内に今も戦前の大型機械を使って機織りをしている女性がいるという現実には感嘆させられた。戦後80年になろうかというのに、機械は今もガチャンガチャンと力強く動いている。
どこの土地も同じだろうが、地方には古びた文化を未来に残そうと積極的に働きかける若者がいる。蒲郡市も同じ。地元の若い女性たちが再生に取り組む。大人たちは「ほっといてくれ」と言い、若者が復活の道を模索。この精神的なギャップこそが、伝統文化を巡るプロジェクトⅩの醍醐味といえよう。スクリーンに映し出される女性たちのチャレンジ精神がまぶしい。
かくして鈴木たち有志によって新たな息吹を注入された三河木綿は会心の作に昇華されて海を渡り、英国の「ロンドン・デザインフェスティバル」に出品。好評価を浴びることになる。まさにものづくり日本の面目躍如だ。
物語はここで終わりかと思ったら、英国のテキスタイル店にもう一段のエピローグが用意されていた。99分にわたって見てきた実話物語に感情移入した観客は、この奇跡に「ウソだろ」と驚嘆するはずだ。その感動を味わうだけでも本作を鑑賞する価値がある。いやはや、事実は小説よりもずっと奇妙で、面白い。蒲郡の人々はこれからも繊維の歴史を歩いて行くのだろうと、胸が熱くなった。スクリーンの向こうでものづくりの神さまが「どうだ、びっくりしただろ」と笑っている。
(配給・宣伝:鈴正 JAYMEN TOKYO)
(文=森田健司)