【モンテ・クリスト伯】少年時代の興奮が蘇る復讐劇の大作

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全編が見せ場の連続

 かくしてダンテスは自分を罠にはめた卑怯者たちに次々と復讐する。夜道で人を襲うような原始的な方法は使わない。合法的な手段で相手を滅ぼしてゆくのだ。この過程で司祭から受け継いだ教養と知識が役に立つ。つまり登場人物の役割が見事に一体化しているのだ。

 本作について言えば、ダンテスはフェルナンら裏切り者の動きを予測していく。自分が打った布石で相手が何を考え、どう動くかを的確に予測。裏切り者たちを真綿で首を絞めるがごとくじわじわと追い詰めてゆく。言うなれば“復讐のプロジェクトX”だ。

 これに加えてダイナミックに動くカメラワークが素晴らしい。大型スクリーンの中をレンズが軽やかに飛翔、滑るように地平を駆けめぐって観客にスリリングな陶酔を与える。そのため約3時間の長尺にもかかわらず、一向に退屈せず最後まで楽しむことができる。全編が見せ場の連続で、気がついたら終わっていた。そんな満足度の高い作品だ。

 個人的な趣味を言わせてもらえば、謎の女エデを演じたアナマリア・ヴァルトロメイが美しい。「あのこと」(2021年)で妊娠中絶の不条理に立ち向かい、昨年は「タンゴの後で」で映画「ラストタンゴ・イン・パリ」に出演したマリア・シュナイダーの苦悩を熱演した。まだ26歳。さらに花開くだろう。

 ちなみに黒岩涙香は明治から大正にかけて活躍したジャーナリスト。権力に立ち向かう反骨精神は今も高く評価されている。主人公のダンテスと同様に黒岩涙香も逆境に屈しない硬骨漢なのである。(配給:ツイン)

(文=森田健司)

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