【ホタテと春菊のワサビ和え】シンプルの中に凝縮された「極み」
これ以上ないんじゃないか、というくらいシンプルな料理だ。とはいえ、ここに至るまでには紆余(うよ)曲折あったという。
「強羅花壇の料理長になったころは、やはり、自分の特徴を出したくて、いろいろ手を加えようとしたものです。ところがあるとき、オーナーのおかみさんとメニューの試食会をしている際に『もっとシンプルに考えたらどうか』と言われたんです。もともとの素材がおいしいのに、自分たちで手を加えることで、素材の良さを損なっていないか。ハッと気づいたんですね」
木下さんは高校を中退して、この世界に入った。強羅花壇の料理長になったのは34歳。それまでの苦労、努力が報われた瞬間だった。気負うのはわかる。それで悩み、迷った。そうした経験を経たうえで、この「極み」があるのだ。
ただし、この料理には、素人は気づかないコツがある。