田中幾太郎
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田中幾太郎ジャーナリスト

1958年、東京都生まれ。「週刊現代」記者を経てフリー。医療問題企業経営などにつ いて月刊誌や日刊ゲンダイに執筆。著書に「慶應幼稚舎の秘密」(ベスト新書)、 「慶應三田会の人脈と実力」(宝島新書)「三菱財閥 最強の秘密」(同)など。 日刊ゲンダイDIGITALで連載「名門校のトリビア」を書籍化した「名門校の真実」が好評発売中。

「開成、麻布、武蔵」入試直前ラストスパートは何をすべき? 21年出題から読み解く傾向と対策

公開日: 更新日:

 東大合格者数トップの座を40期連続で死守する開成の入試(中学募集定員300人)の出願受け付けが、12月20日から始まった。開成と並び、都内私立中高一貫校「男子御三家」に数えられている麻布(300人)の出願は1月11日、武蔵(160人)は1月10日から。いずれも、試験日は2月1日だ。

「入試本番まで秒読みとなった段階で、最後にカギを握るのは算数と国語」と話すのは、大手学習塾・難関校コースのスタッフ。

「難関校を目指す生徒は、この時点で理科や社会は仕上がっていて当然。あとは、今まで学習してきたことを確認するだけです。しかし、算数や国語はぎりぎりまで、トレーニングしておかなければならない。ちょっとしたことで、もっとも差がつく教科だからです」

 その方法とは、目指す学校の過去問を解くこと。試験時間や答案用紙の形状など、本番の条件と同じにして、すでにトライした年度のもので構わないから、ひたすら問題を解いていく。それを繰り返し行うことで、その学校の傾向を脳に覚え込ませていくのだ。御三家各校の算数と国語の特徴を2021年の出題から見てみることにする。

■22年の開成の算数は「速さ」の問題をしっかり

 まず、算数。21年の開成は文章題、平面図形、数の性質、立体図形、場合の数。

「もっとも正答率が低かったのは『数の性質』の中の1問で、9998分の1を小数で表した時、小数第96位の数字は何かという問題。超難問というほどではないのですが、導き出すのに時間がかかる。これは後回しにして、別の問題に取りかかったほうが得策でした」(学習塾スタッフ)

 受験生の8割以上が解ける問題が約半数。3~4割の受験生が解けるのが30%。1割前後の受験生しか解けない難問が20%といった出題構成になっている。

「基礎力が問われる易しい問題をケアレスミスで落とさないようにするのが肝心。開成でもっともよく出題される『速さ』の問題が21年はなかったので、22年ではしっかり押さえておきたいところ」(同)

 21年の麻布は平面図形、速さ、規則性、数の性質、論理・推理、場合の数。毎年、ジャンルをまんべんなく網羅しているのが特徴だ。

「"気づき"を必要とする問題があり、過去問で慣れておくべきでしょう。20年と21年は比較的易しく、差がつきにくかったので、22年は難易度の高い問題が出そうです」(同)

■考えがまとまったら書いて書きまくる

 算数にもっとも力を入れているのが武蔵。大問は4題あり、1題ごとにB4用紙1枚が渡される。そこに問題文が書かれ、空いているスペースは全部解答欄。答えを導き出すために考えた痕跡をそこにすべて残す。プロセスを重視しているのだ。21年の出題は計算、速さ、平面図形、立体図形だった。

「B4用紙4枚に対し、試験時間は50分と短い。逡巡していたら、あっという間に終わってしまう。考えがまとまったら、すぐに書いて書きまくるクセをつけておく必要があります。過去問をたくさん解いて、スピード感を身につけるのが合格への近道です」(同)

「算数の武蔵」という称号も与えられている同校。一方、「国語の○○」という称号を持つのが麻布だ。大問は1題。8000~9000字という長文の物語文を読んで、設問に答えていく。21年は芥川賞作家の津村記久子さんが書いた短編集「サキの忘れ物」(20年刊)に所収されている「河川敷のガゼル」という作品(約8900字)だった。

麻布の国語の物語文は流し読みするだけで20分

「麻布で採用されている物語文は、流し読みするだけでも20分はかかります。設問では漢字や選択問題に加え、読解力を問う記述式の問題が10問前後あり、内容をしっかり把握しなければならない。実際には、読むのに試験時間(60分)の半分の30分は見ておかなければなりません。内容を理解しつつ、いかに早く読めるかが勝負になってきます」

 こう説明するのは、自身も国語の授業を行う学習塾経営者。読む速さは普段の読書量で培われるもの。入試直前に改善するのは難しいが、過去問を解くことはやはりここでもプラスになる。設問の傾向をつかんでおくことは、国語でも欠かせないのだ。麻布の場合は「読解力だけでなく、推理力を問う設問も多い」という。

 武蔵も麻布と同様、長文の大問が1題だけという形式。麻布ほど長くはないが、試験時間50分で5000~7000字といったところ。以前は物語文ばかりだったが、最近は説明文が多くなっている。21年は文学者の加藤博子さんの「五感の哲学」(16年刊)からの出題。文字量は約5200字だった。武蔵の国語では「テーマをコンパクトに要約する力が大切」だ。

 開成は大問が2題。ほとんどは物語文と説明文の構成になっている。21年の物語文は児童文学作家・最上一平さんの「銀のうさぎ」(84年刊)から。説明文は漫画家の山田玲司さんが書いたエッセイ「非属の才能」から。試験時間は50分で、やはり読むスピードが要求される。

「御三家の国語はいずれも、問題の量に対して試験時間が短すぎる。そういう意味では、事前に読んでいる作品が試験問題に出てくれば、圧倒的に有利。開成の『銀のうさぎ』は日本児童文学者協会新人賞を受賞している作品で、目を通したことのある受験生がけっこういたのではないか。麻布の『河川敷のガゼル』は児童向けではないが、少年が登場するなど、馴染みやすい小説。しかも入試の前年に発刊されていることから、やはり読んだ受験生がかなりいたと思います」

 そうした幸運が必ずしもプラスに働くわけではないと話すのは、十数年前に麻布を受験した人物。

「少し前に読んだ小説が出てきて、喜び勇んで設問に答えたのですが、はしゃぎすぎました。なまじっか、前後の脈絡を知っていたために、問題文からは絶対に読み取れないようなことまで書いてしまったのです。これが原因かどうかはともかく、麻布は見事に落ちました」

 ただし、この元受験生、麻布は不合格ながら、第1志望の筑波大附属駒場には合格。事なきを得た。

 入試本番まであとわずか。受験生たちは最後の追い込みにアクセルを全開にしている最中だろうが、何より大切なのは体調管理。無理だけは禁物だ。

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