無保険や経済的理由での受診控えが招く悲劇…「手遅れ死亡」の恐るべき実態
長引くコロナ禍では、院内感染対策から受診を控える動きが拡大。厚労省がまとめた2020年の「病院報告」によると、1日当たりの平均外来患者数は対前年比1割減の119万3205人。統計開始から最大の下げ幅となっている。それで問題なのが、診断時に手の施しようがなく命を落とすケースが珍しくないことだ。
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全日本民主医療機関連合会(民医連)は、医科や歯科の医療機関のほか、薬局や介護などの1758事業者が加盟する団体で、そのうち病院・診療所・歯科の706事業所を対象に「経済的事由による手遅れ死亡事例調査」を毎年、行っている。今月20日、その2021年版の調査結果を発表した。常任理事の久保田直生氏が言う。
「調査では加盟医療機関などから、①国民健康保険料(税)の滞納などで無保険もしくは短期被保険者証、資格証明書によって病状が悪化して死亡に至ったケース②正規の保険証を持ちながらも経済的事由によって受診が遅れて死亡に至ったケースを聞き取り、手遅れ死亡事例としてカウントしました。その結果、22都道府県連から45件が該当。20年と比べて5件増えています」
国民健康保険では、年に1回、保険証が更新される。一時的な保険料などの滞納があると、有効期限が通常より短い「短期被保険者証」、1年以上の滞納では「資格証明書」に切り替わることがある。「資格証明書」では窓口で医療費の10割を負担し、後で給付割合分が還付される仕組みだ。どちらも保険料滞納のペナルティーとはいえ、医療機関へのアクセスが強く制限される。
そこで45件の内訳を見ると、無保険や制限のある保険証の①が20件。正規の保険証を持つ②の方が25件と①を上回っているのだ。
■45件は氷山の一角。1万件超の恐れも
それでも「全国でたかだか45件なら大したことないだろう」と思うかもしれないが、決してそんなことはない。同事務局長の岸本啓介氏が言う。
「われわれの加盟医療機関を受診される患者数は日本全体からみると、ごくわずか。その点を踏まえると、この調査結果はあくまでも氷山の一角です。しかも、全国的に受診控えが進む状況でありながら、手遅れ死亡数は微増。悪いことに、コロナ前からギリギリの生活をしていた人が、コロナ禍で失業や収入減少などでより一層生活の苦しさを募らせて悲劇に結びついているようなケースが相次いでいるから深刻なのです」
1日の外来患者数は前述の通り全国で約119万人。民医連の患者数は約11万人だから、全国の9%ほど。また、厚労省の「医療施設調査」によると、民医連の706施設は全国の0.4%でしかない。「氷山の一角」を強調するのは当然だ。手遅れ死亡数を患者数で全国換算すれば11倍と495件に、医療機関数での換算なら250倍、1万1250件にハネ上がる。
なるほど、こうしてみると、手遅れ死亡数が全国で数千件あっても不思議はない。では、苦しみながら命を失った人たちは、どんな末路をたどったのか。