「鈴木一雄-にっぽん列島-いのちの聲」鈴木一雄著
「鈴木一雄-にっぽん列島-いのちの聲」鈴木一雄著
これまで日本の大自然をカメラに収め多くの写真集を発表してきた写真家が、その大自然の中で暮らす生き物たちにレンズを向けた作品集。
厳冬の北海道、阿寒湖の夜明けから始まる。山の向こうから今まさに太陽が昇ろうとしているが、見渡す限り生き物の姿はない。ただ、雪原と化した凍った湖面には、無数の生き物の足跡が残されている。
人間たちが眠っている夜に、さまざまな生き物が活発に動き回っている姿を思い浮かべ、著者は胸を熱くする。
続くページには、夕方、ねぐらに向かって海辺を歩くエゾシカをとらえた作品が収められている。海を隔て、すぐ近くに国後島が迫り、厚い雲の合間からもれた夕日が空の一角を染めている。
以降、木の上で食事中のエゾリスや、狩りに出かける夜に備えて木の洞で目を閉じて休んでいるエゾフクロウ、朝日が透き通り黄金色になった羽で羽ばたく体重わずか8グラムのシマエナガなど、まずは1月に撮影された北海道固有の生き物たちが次々と現れる。
そんな合間に、シジュウカラが飛び立つ瞬間の姿など、お馴染みの生き物を被写体にした作品も収められる。普段、何げなく目にしているシジュウカラも、著者のレンズを通すと、躍動感に満ち、その羽の色の美しさにほれぼれとさせられる。
以降、寒風吹きすさぶ海辺で獲物を巡って争うオオワシとオジロワシ(北海道羅臼町)や、吹雪の中で雪を掘り起こし凍り付いた草を食べている寒立馬(青森県東通村)らが登場する2月、東京郊外の自宅近くで撮影したという散った桜の花筏が流れる川で獲物を狙うダイサギや、沖縄の石垣島と西表島だけに生息するという日本で最も小さい蛍「ヤエヤマボタル」の何千匹という群れが作り出す幻想的な風景を収めた3月など、撮影された月ごとに作品が並ぶ。
撮影地は全国各地に及び、生き物たちが語り掛けてくる聲に耳を澄ますように、時にダイナミックな、そして時に静謐なその命の輝きをとらえる。
そうした作品の合間に、林の入り口で息絶えたテン(山形県小国町)や、山中の大きな沼に横たわる沼の主のように大きなコイ(福島県桑折町)、秘境の滝で命を終えた50センチ超えの大きなイワナ(群馬県安中市)など、その生を全うし静かに死を迎えた生き物たちの姿にもカメラを向ける。
終わる生あれば、たった今生まれる命もある。
林道わきの小さな池で卵からかえったばかりのクロサンショウウオの赤ちゃんのはじめての息継ぎ(山形県小国町)や、羽化してからわずか1、2分だけ羽が青白く光るミンミンゼミのその瞬間をとらえる(東京都東村山市)など、生き物たちが見せる生と死の荘厳なドラマを一枚の写真の中に閉じ込める。
ハヤブサが国の天然記念物であるトキの幼鳥をからかって遊んでいる珍しいショット(新潟県佐渡市)など、全55種の生き物を被写体に96作品を収録。
(風景写真出版 4950円)



















