兄弟・姉妹がテーマの文庫本特集
「兄思い」小杉健治著
人が生まれて初めて出会うライバルは兄弟・姉妹である。ライバルではなく守護天使だったりすることもあって、その関係はさまざまだ。自分のケースと比べながら、兄弟姉妹の物語を読んでみるのもいいかもしれない。
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「兄思い」小杉健治著
深川・万年橋の下で娘の死体が発見された。遊び人風の男が「お仲」と叫んでしがみつこうとした。
男は古着の行商人の政次。死体は恋仲だった料理屋の女中、お仲だという。前夜、お仲は足袋問屋・武州屋の寮に呼ばれたが、そこにはお仲にちょっかいを出していた旗本の次男坊、田畑新次郎がいたと。
2日後、柳原通りで小間物の行商人、安吉の死体が見つかった。安吉が政次と親しかったと聞いて、定町廻り同心が安吉の死を告げると、政次は突然、お仲を殺したのは自分だと言い出した。
不審に思った与力の青柳剣一郎が調べると、政次は大店の木綿問屋の次男で、店の金を使い込んで勘当されたと判明。妹のお小夜が兄の住まいを探しあてたという。
嫁入り近い妹を守るために罪をかぶろうとした兄の物語。
(祥伝社 902円)
「私と弟のにじいろの幸せ」珠川こおり著
「私と弟のにじいろの幸せ」珠川こおり著
大学生の秋山茂果の弟、穂垂は、小柄で柔らかな顔立ちで、幼いときは天使のようだった。茂果は可愛くて仕方がない。
ある日、SNSの裏アカウントで穂垂がBL(ボーイズラブ)の2次創作を描いていることを知り、茂果は弟が同性愛者ではないかと心配になる。
茂果が恋人の朗と一緒にいたとき、ばったり穂垂に会ったら、穂垂は突然、走り去ってしまった。
朗に穂垂のことを相談すると、朗は、自分も子どもの頃、同じクラスの男の子を好きになったことがあると話し、BLが好きだからというだけで穂垂をゲイだと決めつけるのは早計だと茂果をたしなめた。だが、茂果は心配で、ついつい穂垂に干渉しすぎてしまう。
自分の価値観にこだわりすぎて弟を案ずる姉の物語。
(講談社 770円)
「ギフテッド」藤野恵美著
「ギフテッド」藤野恵美著
クリスマスイブに、フリー翻訳者の凜子は妹の子どもたちへのプレゼントの本を持って妹宅を訪問。長女の莉緒が中学受験のため、T大卒の凜子は指導を頼まれたのだ。
莉緒は成績優秀だが落ち着きがなく、小学校では問題児扱いされた。凜子も職場の人間関係がうまくいかず、退職したことがあった。結婚にも縁がなかった。結婚して親になった妹より、姪たちのほうに自分は近いような気がする。
妹の夫・岡田は医師だが、T大に落ちたので凜子にライバル心を持っている。年が明けて受験の日が近づいてきたが、塾の教師と合わないので莉緒は塾に行きたがらない。岡田が勉強を教えようとしても嫌がるので、岡田は凜子に、「お義姉さん自身は、中学受験の経験がないんですよね?」と嫌みを言う。
優秀な姉と妹の家族の葛藤を描く家庭小説。
(光文社 968円)
「介護者D」河﨑秋子著
「介護者D」河﨑秋子著
東京で派遣社員として働いていた琴美は、2カ月前に札幌の実家に戻った。優秀な妹の美紅は東京の短大に進学した後、留学先のアメリカで結婚した。両親は塾を経営していたが、母がひき逃げ事故で死に、父は1人暮らしになった。
夏の盛りに父が脳卒中で倒れた。症状は軽かったが、買い物に必要な運転はできなくなった。冬が来る前に「雪かきに来てくれないか」というメールが来て、琴美は仕事の契約が切れたのを機に実家に戻ることにした。父が平均寿命まで生きるとしたらあと15年。そのとき、琴美は45歳だ。根を張れないような生活で、楽しみは女性アイドルグループのステージを見ることだった。
ある日、深紅のジャケットを着た美紅が、息子の健を連れて帰省した。
父の介護をきっかけに自分の行く末を考えて、揺れる女性の心理を描く。
(朝日新聞出版 968円)



















