「古来種野菜を食べてください」高橋一也著/晶文社(選者:稲垣えみ子)

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効率と値段でジャッジされる世と対極にあるものを語る

「古来種野菜を食べてください」高橋一也著/晶文社

 先日、新宿伊勢丹のデパ地下で「農と食と向き合う」イベントがあり、ひょんなことから不肖イナガキも友人の居酒屋店主と1日野菜酒場を開催。この時使った野菜が面白かった。ゴッツゴツの赤カブ、里芋、菊芋、ゴボウ……そのヤンチャなパワーに押されて梅干しや味噌などの超単純な味付けしかできなかったがこれが大正解で、誰一人残す人はいなかった。酒も進んだ。私の力ではなく野菜の力。おもしろーい。そしてこの野菜を扱っている八百屋さんが畑も店も持たず流通だけを担っていると知り、それもまたおもしろーいと、その八百屋さんが書いた本書を買った次第。

 高橋さんが扱うのは、各地の農家が先祖の代からタネ取りを繰り返して細々と作り続けている野菜だ。毎年新しいタネを買えば均一な野菜ができる「F1種」(現代の野菜はほぼコレ)と違って形も揃わず収穫の時期も量も自然次第、さらにタネ取り自体が重労働ゆえ大量生産には全く向かず、現代の流通に乗ることはない。それでもそんな野菜を作り続ける希少な農家を高橋さんは探し出し、飲食店や小売店とつなぐ。個人向け通販もやる。美術館で野菜を売ったり種をテーマにイベントも開く。いわば野菜ゲリラ。そして本書は、なぜ自分はそんな道なき道を進むのかを語った記録だ。

 インタビューありポエムあり歴史や制度の解説ありと話はあちこちに飛び、ついていくのが大変だが、その理由もわかる。効率と値段で全てがスッキリとジャッジされる世の中で、その対極にあるものを語るのだからスッキリ説明できるわけもない。

 それでも私には重要な発見があった。これまで古来種野菜とは単に「昔の野菜」と思っていたんだが、元をたどれば大陸から伝わったタネは1種類で、それが日本各地に広まり、気候も土壌も違う各地で代々作り続けられてきたことで「古来種野菜」ができたのである。古びたものではなく、人が生き延びるためにつないできたバトンなのだ。それを失うとはどういうことか。それを高橋さんはポエムやチャート図や私見を駆使して必死に伝えようとしている。あなたはどう思う? と。

 私は、我らが成長によって得たもの(安定と効率)と、失ったもの(味覚と会話と多様性)を思った。果たして得たものの方が失ったものよりも大きかったと言えるのだろうか? ★★

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