かえるの本屋さん すうぶんどう書店(麻布十番)子どもが喜ぶ仕掛け満載の店内に時代小説が棚2メートル分
店頭のラックに雑誌がずらり。昔風? いやいや。右手に、赤い鳥居が映える「井戸のかえる神社」があるわ、店内から子どもたちの弾む声が聞こえるわ。しかも一歩入れば、鮮やかなオレンジ色の本棚に目を奪われる。
「曽祖父が大正5年に神田で出版社を創業。昭和3年にここへ移って曽祖母が始めた本屋ですが、昨年ビルを建て替えたので。新装開店したばかりです」と、店長の嶋田和久さん(46)。
従前より少し狭くなって24坪に。新装にあたって、「楽しい店」にしようと屋号をひらがなに変えた。「かえるの本屋さん」の愛称は、「江戸時代に大火事になったとき、大蛙が火を止めたという麻布の伝説から」だそう。小さな神社(もどき)までつくっちゃったとは、面白すぎ! 外まで聞こえた子どもたちの声は、レジ近くのルーレットダーツ前からだった。200円で遊べ、相応のおもちゃがもらえるのだ。
「子どもたちが『また来たい』と思う本屋にしたいんです。十番は家族人口が多く、商店街のモットーが『子どもから高齢者まで』なので、則って」
“麻布十番らしい”売れ方をするジャンルは? の問いに、嶋田さんは「グルメ雑誌と『ミシュランガイド』」「絵本・児童書、学習参考書」「時代小説」の3つを挙げた。そういえば、お客の誰もが、外食の感度が高く、教育熱心っぽい人たちに見える。
「あと、地域のお年寄りに、時代小説ファンがすごく多いんです」と嶋田さん。時代小説の文庫本棚に行き、驚く。なんと面陳列100冊+棚2メートル。全時代小説家を網羅していそうな勢いだったから。
世界中の書店300軒を回った経験が血肉に
話題書、文芸書、政治&社会の棚を経て、「高校生におすすめ」として森絵都の「カラフル」、「麻布十番民必読」として麻布競馬場(というのが著者名)の「この部屋から東京タワーは永遠に見えない」が。
その奥に「俺の棚」なるものを発見。俺=嶋田さんだ。司馬遼太郎「街道をゆく」やアイルランドのガイド本が並んでいて、「20歳のときにアイルランドへ留学したので」と嶋田さん。あー、この話もっと書きたいが紙幅が尽きそう。嶋田さん、元は旅行会社勤務。退職した2007年に世界一周航空券で1年間の旅に出て、世界中の書店300軒を回ったんですって。記録ファイルを見せてくれ、私など「すごっ」の連発だ。そんなこんなが血肉となった本屋さんだったのだ。
◆港区麻布十番1-11-11/地下鉄南北線・都営大江戸線麻布十番駅から徒歩1分/午前10時~午後8時半(日曜・祝日は午前11時~午後7時)/無休(正月三が日のみ休み)
ウチの推し本
「麻布十番街角物語」辻堂真理著、言視舎 1870円
「2000年に地下鉄の駅ができるまで、麻布十番は陸の孤島。あか抜けない下町でした。地元住民としてそんな実感はありますが、古い歴史のことなど私も知らなかったんです。地元出身の放送作家が、十番を掘り起こしたこの本は貴重。忠臣蔵にも描かれた歴史、幕末の事件の舞台になった寺。バブル期の狂乱や再開発の嵐をどう乗り越えたか。歴史秘話が詰まり、多くの人に読んでほしい一冊です」



















