「人間には12の感覚がある」ジャッキー・ヒギンズ著 夏目大訳

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「人間には12の感覚がある」ジャッキー・ヒギンズ著 夏目大訳

 グレゴール・ザムザはある朝起きたら虫になっていたが、英国の19歳の青年は目覚めたときに首から下の感覚がなくなっていた。幽体離脱したかのように自分の体が自分のものであると感じられなくなったのだ。この「自己受容感覚」は、近年明らかになった五感以外の隠れた感覚のひとつ。青年の場合、ウイルスの合併症により知覚繊維が破壊され、そこからの信号が脳に届かなくなったことが原因だ。

 しかし、タコはこの体にある受容感覚と脳の関係は分離されていて、脳とは無関係に8本の腕が独自の動きをするのだという。ヒトには五感があるとされていたが、感覚の種類はもっと多く、今後の研究では33種類くらいに増えそうだという。本書では、五感をはじめ平衡感覚、時間感覚など12の感覚について、タコのようなユニークな感覚を持つ動物を紹介しながら、その深遠で摩訶不思議な世界を見せてくれる。

「犬は人間の10万倍、鼻が利く」という説があるが、これは過小評価で、実は人間は少なくとも1兆種類のにおいを嗅ぎ分けられるほど優れた嗅覚があることが分かっている。生まれてすぐ視覚と聴覚を失ったヘレン・ケラーはにおいを嗅いだだけで個人識別ができたという(彼女は優れた触覚の持ち主でもあった)。

 多くの生物が体内時計を有していて、人間を含めてそのほとんどが1日=24時間±1時間程度の周期だが、ゴミグモとその近縁種には17時間や28時間という極端な種類がいる。クモたちはその大幅な周期のズレを毎朝修正しており、その秘密が解明できれば時差ボケや時盲(時間感覚を失う疾患)の治療に役立つかもしれないとも。

 その他、人間にもフェロモンがあるかどうかを調べるために、3日間着続けたTシャツを使った「フェロモン・パーティー」という実験が行われたことなど、驚きに満ちたエピソードがふんだんに盛り込まれている。 〈狸〉

(文藝春秋 2860円)

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