欧米にも見劣りしない新国立劇場の舞台 日本のオペラ劇場は世界レベルになった
1965(昭和40)年、23歳の私は「スラブ歌劇」の来日公演でムソルグスキーのオペラ「ボリス・ゴドゥノフ」を見た。ボリスを演じたのは伝説のバス歌手ミロスラフ・チャンガロビッチ。本来重々しい低音を響かせるバスでありながら、まるでテノール歌手のような滑らかな歌声は、いまでも強烈に覚えている。
57年前の記憶をひもときながら、先日、新国立劇場に大野和士さん指揮の「ボリス・ゴドゥノフ」を見に行った。そこで「日本のオペラ劇場はついに世界水準に達した」と思った。指揮、演出、舞台美術、衣装、オーケストラの管弦楽、どれも欧米の劇場と比べても見劣りしなかった。
ただ惜しむべきは、出演した声楽家たちが、率直に言っていまひとつだったこと。申し訳ないが、どうしてもかつて見た「ボリス・ゴドゥノフ」と比べてしまうのだ。
今回はポーランド国立歌劇場との共同制作。キャストも日本とヨーロッパの混成チームだったが、聴いていてうならせられるほどのものはなかった。1階の後ろの席だったので、あまり声が響いてこなかったのかもしれないが、そのせいだけではないように思う。