「奇のくに風土記」木内昇著

公開日: 更新日:

「奇のくに風土記」木内昇著

 主人公は、紀州藩士の息子・畔田十兵衛。幼い頃から他人はもちろん身内にさえ本音を話せない性分だったが、草花とは自在に語り合えたため、ほとんどの時間をひとり野や川辺を歩いて草木を愛でて過ごしていた。畔田家を継ぐため、草木を学ぶ本草学より国学を学んだ方がいいと言われていたものの、本草学を学びたい十兵衛は紀州の藩医で本草学者の小原桃洞を師と慕っている。

 そんなある日、十兵衛は入ってはいけないと母から言いつけられていた岩橋の山に出かけ、思いがけず天狗と遭遇する。そこで天狗から渡された定家葛の蔦を庭に植えて以来、十兵衛の身の回りに不可思議な出来事が起こり始めるのだが……。

 本書は、もうひとりの熊楠ともいわれ、のちに本草学者となる実在の人物・畔田翠山をモデルにした時代幻想譚。作中には挿絵として翠山本人が描いた生物や風景画を収録。懐の深い自然の中に分け入り、ひとつひとつの植物と真摯に向き合いながら心から愛でる主人公の繊細な心情を丁寧に追いつつ、恩師の教えを胸に本草学者へと独り立ちしていく日々を幻想的に描いている。

(実業之日本社 2200円)

【連載】木曜日は夜ふかし本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    名球会入り条件「200勝投手」は絶滅危機…巨人・田中将大でもプロ19年で四苦八苦

  2. 2

    永野芽郁に貼られた「悪女」のレッテル…共演者キラー超えて、今後は“共演NG”続出不可避

  3. 3

    落合監督は投手起用に一切ノータッチ。全面的に任せられたオレはやりがいと緊張感があった

  4. 4

    07年日本S、落合監督とオレが完全試合継続中の山井を八回で降板させた本当の理由(上)

  5. 5

    巨人キャベッジが“舐めプ”から一転…阿部監督ブチギレで襟を正した本当の理由

  1. 6

    今思えばあの時から…落合博満さんが“秘密主義”になったワケ

  2. 7

    巨人・田中将大が好投しても勝てないワケ…“天敵”がズバリ指摘「全然悪くない。ただ…」

  3. 8

    高市早苗氏が必死のイメチェン!「裏金議員隠し」と「ほんわかメーク」で打倒進次郎氏にメラメラ

  4. 9

    世界陸上「前髪あり」今田美桜にファンがうなる 「中森明菜の若かりし頃を彷彿」の相似性

  5. 10

    三角関係報道で蘇った坂口健太郎の"超マメ男"ぶり 永野芽郁を虜…高畑充希の誕生日に手渡した大きな花束