夢野書店(神保町)ワクワク感に満ちた漫画の専門古書店
お菓子は売ってないけど、駄菓子屋さんを彷彿とした。入り口を入ってすぐの棚からして、目がくりくりした昭和中期の女の子が表紙の「りぼん」、半ズボンの少年が表紙の「鉄人28号」などお宝続々。おっと「ガロ」もある。奥からは、「お小遣いで大丈夫よ」との囁きも聞こえてくる(ような気がする)。店内全域がカラフルで、蔵書数なんと3万冊。ワクワク感に満ちた漫画の専門古書店だ。
「店名は、元の『中野書店』の1字と、『魔法使いサリー』ちゃんの名前、夢野サリーからです」と店主・西山友和さん(66)。
「元の中野書店」とは、近代文学を掲げて久留米でスタートを切り、1978年にここ神保町へやってきた古書店。初代社長が手塚治虫好きで、「当時、二束三文だった漫画本にきちんと値付けをして売った」。それが、広く古書漫画の価値付けと、市場形成の嚆矢となった。重要な役割を果たした店なのだ。
「漫画は前向きなアイテム。それを読んだ楽しい時代を思い出しますよね」
西山さんは、その中野書店に83年から勤務。同書店が版元となり、そうそうたる漫画家の既存作を収録した函入りの復刻本作りもしてきたそう。「もう売り物じゃないけど、これとか」と、重厚感のある「水木しげる初期作品集」の凝った函をサクッと見せてくれる、カジュアル感がかっこいい。2015年に閉店した同書店を、この「夢野書店」が引き継いだとのこと。
「のらくろ探検隊」「のらくろ中隊長」など「のらくろ」復刻版15冊組に目が行った後、隣の「白土三平異色作選」に気を取られ、続いて、奇抜な発色の「南極探検 白瀬中尉」にも手が出る……。わさわさしていると、同行カメラマンは「中高生のとき、どハマりした」と「うる星やつら」を手に、会心のほほ笑みを浮かべちゃっている。
「少年マガジン」も「少年ジャンプ」も「少女フレンド」もずらり。ビニールでくるまれているが、「目次をコピーして、外から見えるように付けています」と西山さん。手がかかっている。
「漫画は前向きなアイテム。古本は、それを読んだ楽しい時代を思い出しますよね」
西山さんの何げない一言が染み入り、この日私は、柴門ふみを買い占めたのだった。
◆千代田区神田神保町2-3 神田古書センター2階/℡03.6256.8993/地下鉄各線神保町駅A3出口からすぐ/午前10時~午後6時半(日・祝日午前11時~午後5時半)、第1.3・5日曜は休み
うちの推し本
「ストップ!にいちゃん」(全13冊中⑦欠、12冊一括)関谷ひさし著
1962~68年に月刊「少年」(光文社)に連載された学園漫画の元祖。
「主人公は、小学生の弟がいる中学生。昭和30、40年代当時、ガキ大将のような存在はいたけど、現在のいじめとは異なり、地域社会の中で力の振り分けが自然に行われていたんですよね。主人公は向こうっ気が強く、子どもっぽく、ガキ大将のような子に反発するタイプ。学校生活と家庭生活の両方が描かれています」
(虫プロ刊古本売値 9900円)