夏休みの読書に!極上のミステリー本特集
「記憶の対位法」高田大介著
梅雨が明けたと同時に猛烈な暑さが襲ってきた。外出には命の危険さえ伴いそうだ。夏休みとはいえ、この暑さでは、クーラーが効いた部屋でおとなしく読書にいそしむのがいいのでは。そこで、今週は決して後悔させない極上お薦めミステリーを紹介する。
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「記憶の対位法」高田大介著
ジャンゴは、フランスの地方都市リモージュで新聞記者として働く。地域は戦前から革新系政党の地盤だが、近年右傾化が進み、移民排斥の動きが広がりつつある。
仕事の合間、ジャンゴは山あいの離村にある祖父の家の後片付けに向かう。ジャンゴが生まれる前に亡くなった元教師の祖父は、戦前、ナチスの協力者で、家は祖父の隠れ家だった。ジャンゴは、その地下蔵で複雑な寄せ木細工で作られた黒檀の小箱を20個ほど見つける。
その中のひとつから、一葉の紙切れが出てきた。分厚い紙片は周囲が鍵のようにギザギザの複雑な輪郭をしており、中世のリモージュの聖人が唱えたという「プロバーウィト・エウム・デウス・エト・スキーウィト・コル・スウム(神は彼を審したまい、彼の心根を知りたもう)」という言葉が記されていた。ジャンゴは紙片の謎を解くため、取材で知り合った大学院生のゾエに協力を求める。
図書館の魔女シリーズの著者による重厚な歴史長編ミステリー。
(東京創元社 2420円)
「青の純度」篠田節子著
「青の純度」篠田節子著
ウェブマガジン編集長の真由子は、旅先で展示即売されていた1枚の絵に心が動く。バブル終焉の頃、大流行した画家ジャンピエール・ヴァレーズの作品だった。楽園や海を描いた画家の作品は、インテリア絵画として美術界では黙殺され、美術雑誌で働いていた真由子も、以前は見下していた。
しかし、忙しい日常を送る真由子の心は、目の前の虚構の楽園を描いた作品に癒やされ、手に入れたいとさえ思うが、プライドが許さなかった。3カ月後、ウェブマガジンが廃刊。役職を失った真由子は、ヴァレーズに関する書籍の出版を思い立つ。彼の作品を扱う画商から本の内容に横やりを入れられるのを恐れた真由子は、画家が暮らすハワイ島に飛ぶ。写真を頼りに海辺の豪邸を訪ねると住人が代わっていた。
フリーダイバーでもある画家の消息を尋ね歩くと、彼が10年くらい前に海で死んだと聞く。真偽が分からぬまま真由子は彼の日本人妻・海玲と会うことに。
バブル絵画の闇を描くアートミステリー。
(集英社 2420円)
「交番相談員 百目鬼巴」長岡弘樹著
「交番相談員 百目鬼巴」長岡弘樹著
警察官の平本が勤務する交番では、定年退職したOGの百目鬼も非常勤の相談員として働く。
ある日、同じ交番に勤務する安川が自殺する。安川は、自転車窃盗の検挙数を上げるため、主任の田窪から教わった通り、放置自転車を張り込みしやすい場所に移動させ、持って行こうとした大学生を逮捕。しかし、大学生の母親が安川が路上に自転車を置くところを目撃しており、謹慎処分となっていたのだ。
5日後の夕方、平本が交番に戻ると、休憩室で田窪が倒れていた。トイレには硫化水素ガスを発生させた痕跡があり、捜査の結果、部下の自死に責任を感じて田窪も自殺を図ったと断定される。
数日後、平本は百目鬼から交番のトイレの換気扇の下に作られたツバメの巣を見せられる。トイレで硫化水素が発生したら巣のヒナは死んでいるはずだが、今もヒナは元気だった。(「裏庭のある交番」)
凄腕の交番相談員が身内の起こした犯罪の真相を明らかにしていく短編ミステリー集。
(文藝春秋 1870円)
「ウインクに警告知的財産部・平間青介」南原詠著
「ウインクに警告知的財産部・平間青介」南原詠著
ゲーム機メーカーの知的財産部に勤務する青介は、開発部とは犬猿の仲。新製品の企画段階で搭載予定の新機能が他社の特許権を侵害していないか徹底して確認、機能削除を開発部に求めるからだ。
ある日、青介は上司の浅井と社長の仲町に呼び出され、自社のヒット商品の携帯ゲーム機モノギアの節電復帰機能について説明を求められる。当初、モノギアには搭載されたカメラにウインクすると節電状態から復帰する機能を搭載予定だった。調べると、その機能はライバル社が開発した技術で特許も取得されているので、青介は削除を指示。工場で抜き取り検査をして削除の確認もしている。
しかし、仲町から見せられた海外の動画には、子どもがモノギアにウインクすると節電状態から復帰する映像が映っていた。
事実なら特許侵害は明らかで、会社に相当なダメージが及ぶ。青介と浅井は仲町の指示で極秘に調査に取り掛かる。
「このミステリーがすごい!」大賞受賞作家がゲーム機メーカーを舞台に描く長編エンタメ。
(光文社 2145円)