「日本の城 武士の夢跡」綾部進著
「日本の城 武士の夢跡」綾部進著
大病を患い医師から歩くよう指導された著者は、若い頃から歴史小説が好きだったこともあり、65歳くらいから城巡りを始めたという。以来、これまでに全国各地の城郭665城を訪ね歩いてきた。70歳で仕事を引退したのを機に、カルチャースクールで歴史や書道、そして絵を学び、訪ねた城を絵に描き残してきた。
さらにその城の絵をカレンダーにすることを思いつき、「日本の城絵暦」として10年続けて制作してきた。
本書は、そのカレンダーに仕立てた10年分の城の絵を収めた画集だ。
初めてのカレンダーは2016年。その最初のページである1月分に選ばれたのは世界遺産の「姫路城」だ。
あの優美で均整の取れた姿に憧れ続け、これまで何度も足を運んだ城で、カレンダーに採用された絵は平成の大修理を終えて生まれ変わったばかりの姿だという。
本丸(備前丸)から、大天守と西小天守を見上げたところを描いたもので、城の絵を描き始めてまだ1年足らずの作品とは信じられないほどの力作だ。
以降、3月の松本城や6月の熊本城、そして12月の名古屋城など、この年のカレンダーには日本人なら誰もが知る有名な城が顔をそろえる。
翌17年の1月を飾るのは火事で焼失した在りし日の首里城だ。
あの朱色が鮮やかな懐かしい城を中心に「中城城」「座喜味城」「勝連城」「今帰仁城」と、ともに世界遺産を構成する同時期に築城された石垣も描かれ、さらに沖縄では1月の終わりころから咲くカンヒザクラの絵も添えられている。
翌2月には、雪にすっぽりと覆われた冬の松前城が選ばれるなど、季節ごとに変わる城の表情も描き分けられている。
絵とともに、城を訪れた時の印象やその構造、そして築城者や藩主などのデータも添えられる。
3年目の18年の1月は江戸城。二重橋越しに見える伏見櫓と西の丸大手門(皇居正門)の雪景色が描かれる。
この年の作品からは、これまでの色鉛筆画に代わって画材も水彩色鉛筆に変化。絵が一段と表情豊かになる。
有名な城ばかりでなく、長崎県対馬市の「金田城」や岐阜県中津川市の「苗木城」などの山城跡を描いた作品もあり、重複もあるが、全部で120城を紹介。
さらに、福井県と滋賀県の県境にある「天神山城」を訪ねた際に斜面を滑り落ちてスズメバチの巣を直撃して襲われたり、長崎県長崎市の「俵石城」では鎧兜姿の古武士に出迎えられたりと、城巡りでの印象的なエピソードをはじめ、費用や計画の立て方、さらにカレンダーの作り方まで、自らの旅の記録とノウハウを惜しげもなく披露。
お城愛好家には見過ごせぬ一冊に仕上がっている。
(梓書院 2200円)