由利本荘市立中央図書館(秋田県)「宇宙船」の中にたたずむ温もりの空間
2011年に開館した複合公共施設「由利本荘市文化交流館カダーレ」。鉄筋コンクリートに覆われた重厚な外観は、まるで巨大で堅牢な要塞を思わせる。だが、一歩中に足を踏み入れると印象は一変、途端に近未来の世界に迷い込んだかのような雰囲気に包まれる。
エントランスは吹き抜け構造。天井まで不規則に削り取られたようなコンクリートの壁面には、無数の照明が埋め込まれ、それらが天窓から差し込む自然光と交錯し、幻想的な光のグラデーションを描き出す。
そんなカダーレの中核をなすのが1、2階に位置する由利本荘市中央図書館だ。
年間来館者数は約27万6000人にのぼり、市の人口の約4倍に相当。多世代が集い、それぞれの目的で思い思いの時間を過ごす、地域に根ざした「知と交流の拠点」として親しまれている。
「カダーレは宇宙船をイメージして設計されたと聞きます。もちろん図書館内も同様で、通路や壁も直線ではなく、曲線やジグザグなど多彩な形をしていますので、それに合わせた形の本棚やデスクを配置しています。馬蹄形の本棚や螺旋階段、まるで宙に浮かぶように設置された球体のプラネタリウムなど、視覚的にも楽しめる仕掛けが随所に施されているので、周囲を見回りながら歩いているだけであっという間に時間が過ぎるはずですよ」
とは、同館主査の板垣俊一さん。
その一方で図書館内には木材が多く使われており、赤茶の本棚や机が並ぶ空間は、「宇宙船」のような未来的な構造の中に柔らかな質感と温もりをもたらしている。閲覧席は188席、学習席は27席。いたるところに「たたずみスポット」が配置されているのもうれしい。ふた付きの飲み物であれば持ち込みが可能で、長時間の滞在も快適に過ごせるよう配慮されている。
「特に吹き抜けに面した席は、開放感のある空間で読書をゆったりと楽しめると評判です」(板垣さん)