セールスマンが売りたい商品に客を誘導する「ゴルディロックス効果」…思わずハマる認知バイアスの罠

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価格を変えずに、販売している商品を高く見せる――。

 強力かつシンプルなセールス・トリックがあります。Uber、アップル、Amazon、Nike、TikTok、コカ・コーラなど世界を創り変える覇者達からマーケティングを任されるイギリスの起業家、スティーブン・バートレット氏が直接体得した仕事と人生に効く33の重要原則をまとめた『執行長日記 THE DIARY OF A CEO』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けします。

  ◇  ◇  ◇

「なぜ彼は、私が興味のない物件を見せようとするんだ?」

 私はアシスタントのソフィに尋ねた。彼女が読み上げているのは、翌日に予定されていた、不動産業者のクライヴとの住宅見学ツアーのプランだった。「さあ。いろいろなタイプの家を見たほうがいいと言っていましたが」とソフィは答えた。

 数日後、私はクライヴが案内してくれた3軒のうち、2軒目の家の購入を申しこんだ。クライヴには感謝している。

 だが、話はこれで終わりではない。数か月後、ブランドやマーケターが消費者の行動に影響を与えるときに使う心理トリックを調べているときに、「ゴルディロックス効果」と呼ばれるものに出くわした。

 ゴルディロックス効果は「アンカリング」の一種である。

 アンカリングとは、個人が意思決定を行う際に、一見無関係な情報(「アンカー(錨)」)を頼りにしすぎる「認知バイアス」である。

 ゴルディロックス効果では、売りたい商品の両隣に2つの「極端」なオプションを提示することで、中央のオプションがより魅力的、もしくは手頃に見える。

 ほとんどの場合、「真」の価値というのは1つの見方にすぎない。したがって、周囲の状況や価格設定から手がかりを探して判断を下そうとする。ゴルディロックス効果が働くと、最も高価な商品は贅沢すぎると感じる。逆に、最も安いものはリスクが高く、品質が低いと見なし、中間を最適なものとして選ぶ。ほかの2つのメリットを併せ持ち、安全でコスト効率がよく、品質も悪くないと思うのだ。

 住宅見学ツアーをあらためて考えると、私は2軒目の物件だけ見せてほしいと頼んだが、クライヴは3軒とも案内すると言い張った。最初に案内された物件は、とにかく狭く、どう考えても価格に見合わなかった。2軒目は広々としていて、1軒目より少しだけ高かった。同じ地区にある3軒目は高級住宅で、価格も手が出ないほどだった。私はクライヴに操られた人形のように、すぐさま2番目の物件の購入を決めた。

 クライヴの行為が意図的だったかどうかを知りたくて、私はメッセージを送り、ゴルディロックス効果を知っているかどうか尋ねてみた。すると、ウインクの顔の絵文字とともに「選択肢は複数用意するに限ります!」と返ってきた。

 してやられた#@$%。

 ゴルディロックス効果を利用して私たちの行動に影響を与えているのは、クライヴだけではない。パナソニックもご多分にもれず、既存の179.99ドルと109.99ドルの電子レンジに加え、1992年に199.99ドルの高級レンジを発売した。すると、中間価格の選択肢(179.99ドル)となった電子レンジの売上が急上昇し、パナソニックは市場シェア60%を占めるまでになった。

 ある実験で、代金に食事やアクティビティ料金がすべて含まれたオールインクルーシブのパリ旅行と、同じくオールインクルーシブのローマ旅行を参加者に選んでもらった。結果はパリが多く選ばれた。

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