「ぴかるです」と言うたび笑われた…偏見だらけの社会でも“自分の名前”で生きる。22歳大学生の決意

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コクハク

「本当にそう読むの?」

 キラキラネーム、シワシワネームなど年代によって“名前”の傾向が異なります。名前が“社会的ラベル”になる現代では、名前を見ただけで性格や親のタイプを勝手に判断されることも…。

「“ぴかる”って、本当にそう読むんですか?」

 面接のたびに、必ずと言っていいほど聞かれる。

 大学4年の春、就職活動中の彼(22歳)は、履歴書を出すたびに“名前”でつまずいていた。

 本名は「光翔(ぴかる)」。

 両親が「どんなときも光を放てる人になってほしい」と願ってつけた名前だという。

【読まれています】「普通が得する時代に…」キラキラネーム世代が陥る“名付け疲れ”。唯一無二の名前=愛の証だった時代の功罪

悪気がないのはわかるけど

 本人も子どもの頃はそれを誇りに思っていた。だが、成長するにつれて、それが“ネタ”になっていった。

「自己紹介で“ぴかるです”って言うと、必ず笑われるんです。冗談だと思われたり、“え、芸名?”って聞かれたり。初対面の人の第一声が笑いって、けっこう刺さるんですよね」

 中学では、「ぴかちゅう」「ライトマン」と呼ばれた。

 高校では担任さえも最初は読めず、出席のたびに「ひかるくん? いや…ぴかる?」と確認された。

 その小さな“間”が、周囲に笑いを生んだ。

「名前で笑いが起きると、その場に自分の居場所がない気がして。変な空気になるんですよ。

 誰も悪気がないのはわかるけど、毎回だと本当に疲れる」

SNSで勝手に拡散されて…

 SNSでは、さらに残酷だった。

 高校時代、クラスメイトが軽いノリで彼の名前を“キラキラネームまとめ”に投稿。そこに勝手に画像が添えられ、拡散された。

「“ぴかる(笑)”ってコメントがついて。あれは、ほんとに消したかった」

 その投稿はすぐに消されたが、検索結果にはしばらく名前が残った。

 以来、彼は本名でSNSを使うのをやめた。

「ネットって、一度笑われたら終わりなんですよ。誰かが“変な名前”って言えば、それが事実みたいに広まる。 

 生まれる前から決められた名前で、人格まで判断されるって、おかしくないですか?」

改名も考えたけれど

 それでも、名前を恨みきれない理由がある。両親が本気で考えてくれたことを知っているからだ。

 母は当時、名付けの本を10冊以上読み、意味の響きを何度も調べたという。

「“オンリーワンの名前がいい”って、うれしそうに話してたのを覚えてます」

 だから、彼は改名を考えたことがあっても、実行に移せなかった。

「改名したら、親が悲しむ気がして。俺が嫌がってること、たぶん知らないんです」

 ただ、悪いことばかりでもない。

「“ぴかる”って一回聞いたら忘れられない名前だから、営業では逆に覚えてもらえる」

 大学のゼミ発表でも、司会に名前を読み上げられるたびに注目が集まり、自然と人前に出る度胸もついた。

「名前で人生が変わる」の悲痛な声も

“珍しい名前”は、ある意味で個性にもなり得る。それでも、心の奥には小さな棘が残っている。

「結局、“名前が変わってる人=ネタにされる人”っていう空気がまだある。名前で笑われるって、本人にとっては“自分そのもの”を否定されてるような気分なんです」

 彼は、同じ世代の友人たちの間でも「名前で人生が変わる」話をよく聞くという。

「“心愛(ここあ)”って名前の子は、接客のバイトで“源氏名みたい”って言われて辞めた。

“夜露(ないと)”って男友達は、就職で“本名なんですか?”って三回も聞かれたって」

 笑い話のようで、誰も笑っていない。

社会が勝手にキャラを決める

“読めない名前”や“珍しい響き”が、社会の中で今も“違和感”として扱われる。

「普通の名前の人には伝わらないけど、名前で生きづらさを感じる人って本当に多い。名前って、自分で選べないのに、社会が勝手にキャラを決めるんですよ」

 彼は少し考えてから、こう続けた。

「親が悪いとも思わない。時代の流行がそうだったんだと思う。でも、“オンリーワン”を求めすぎた結果、子どもが“笑われる側”になるのは悲しいですよね」

 彼はいま、内定先の名刺を見つめながら言う。名刺にはしっかりと「光翔(ぴかる)」の名前が印字されている。

「この名前で、もう一回ちゃんと生きてみようと思ってます。笑われても、俺の名前だから」

 その表情は、少しだけ誇らしげだった。

(おがわん/ライター)

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