「エピクロスの処方箋」夏川草介著
「エピクロスの処方箋」夏川草介著
タイトルの「エピクロス」とは古代ギリシャの哲学者のこと。快楽主義を提唱したが、その意味するところは「内面の安定」。本書の主人公・雄町哲郎39歳は、そんなエピクロス哲学を心に秘める京都にある地域病院の内科医だ。
大学病院の医局長だった哲郎は、3年前、病没した妹の息子・龍之介を引き取る決意をし、小規模病院に転職。今は、外来、病棟、高齢者の訪問診療と多岐にわたる業務にいそしむ日々だ。
そんなある日、大学病院時代の上司である花垣准教授から、難しい症例が持ち込まれた。82歳男性の慢性膵炎で、4回目のERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)を考えている、と。その老人は、かつて哲郎が激怒させた大学病院の飛良泉教授の父親だった。逡巡の末、哲郎は引き受ける決意をするが──。
医療がテーマの小説だが、主旋律は哲郎を中心にした医師や患者らの人間模様。大学病院ならではのいざこざ、医師同士の軋轢、甥・龍之介との生活も読みどころだが、「医療では人は救えない」「人間は無力」など、生と死を見つめてきた哲郎が語る言葉が印象に残る。登場する医師たちは個性的、癖ありの患者もいるが、哲郎の視点を通して見ると「世界は案外悪くないと」思わせる。「スピノザの診察室」の続編。
(水鈴社 1980円)



















