「学際的パンデミック対策:新型コロナウイルスと戦ったスウェーデン元国家疫学者の証言」アンデシュ・テグネル、ファニー・ハーゲスタム著 宮川絢子訳/法研(選者:中川淳一郎)

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正しかったスウェーデンのノーガード作戦

「学際的パンデミック対策:新型コロナウイルスと戦ったスウェーデン元国家疫学者の証言」アンデシュ・テグネル、ファニー・ハーゲスタム著・宮川絢子訳

 新型コロナウイルス対策において、「ノーガード戦略」と呼ばれ世界各国から批判されたスウェーデン。その最前線で陣頭指揮を執ったのが、テグネル博士である。訳者の宮川氏は、ストックホルム・カロリンスカ大学病院の外科医。

 欧米各国がロックダウンし、マスクを義務化した中、スウェーデンはいずれもしなかった。当初死者は多数出たものの、終わってみればEUでもっとも低い超過死亡率の国となった。当初日本も含め、「ゼロコロナ」を目指すという方針を各国は持っていた。そのために、WHOのテドロス事務局長は「検査、検査、検査」とまで言ったが、テグネル氏はそれに対して懐疑的だった。

〈国際的には、広範囲に検査を行うべきだという圧力が膨大だった。キャパシティのある国々はそれを最大限に利用し、キャパシティのない国々はそれを構築しようとした。パンデミック初期には、多くの国々が、新型コロナウイルスを完全に根絶するという野心を持っていた。検査しなければ確認することが不可能な病気を、だ〉

 結局COVID-19は2025年の今も存在するし、「ゼロコロナ」ではなく、「ウィズコロナ」の社会になっている。日本でも、多くの専門家やテレビのコメンテーターが検査の重要性を訴え続けていたが、いくら検査をしようが、ウイルスは人間をあざ笑うかのように拡散し、検査能力を超える勢いで広がっていった。

 日本の場合、志村けんさんが亡くなりパニックとなった2020年4月、当時北大教授の西浦博氏が「接触を8割減らさないと42万人が死ぬ」という数理モデルに従う衝撃的なシミュレーションを発表し、パニックが加速した。だが、テグネル氏はこう述べる。

〈私と私の同僚たちは、数理モデルという手法は役に立つと思っていたが、感染拡大の初期に作られたモデルについては、私も同僚たちも、あまり信頼を置けないと感じていた〉

 さらに、スウェーデンがマスクを義務化しないことへの批判についてはこう述べる。

〈数か月の間、多くの国々がマスクにこれほど力を入れていることに驚いていた。私自身、記者会見でもマスクについての質問をよく受けたが、公衆衛生庁にとって、マスクはそれほど重要な問題ではなかった。不確実性の高い対策に多くの国々が頼ろうとしていることが、私には理解できなかった〉

 まさにこの通りなのである。今もコロナはある。なのに人々はマスクを外したのか? 結局「空気」の問題だったのだ。テグネル氏は批判を覚悟でスウェーデンの方針を作ったが、同氏が正しかったのだ。 ★★★

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