「鮎釣り海釣り」稲葉修著
「鮎釣り海釣り」稲葉修著
稲葉修は、ロッキード事件の首魁田中角栄に逮捕状を出した当時の法務大臣である。
生まれはサケの町・新潟県村上市。川や海の釣りに精通し、この本を読めば、口も達者だが、文章にもたけた知略家であることがわかる。
「五十川」と題されたページを開いてみよう。
昭和51年7月27日、ロッキード事件で角栄が逮捕された前日のことが書かれている。
法務大臣はその日、故郷の村上市近くの五十川で、一家を挙げてのんびりアユ釣りに興じていた。
午後になり、法務省の刑事局長から電話が入った。川から上がって受話器を取ると「明日、角栄を逮捕したいが、本日中に逮捕状を裁判所に請求したい。許可をいただきたい」とのこと。
稲葉は「やむを得ませんな」と承諾。その後は何食わぬ顔で日暮れまでアユを釣り、夜には地元選挙区で講演会をこなし、夜行列車で帰京。翌日の角栄逮捕に備えた。
家族にも悟られることのない冷静な行動で、世紀の逮捕劇は混乱なく遂行された。
口絵に稲葉の釣り写真が載っている。激流に竿差してその隙のない姿は名手も顔負けだ。
(二見書房)



















