神戸靖一郎
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神戸靖一郎弁護士

麹町パートナーズ法律事務所在籍。慶応大学法学部卒業後、千葉大学法科大学院修了。東京第二弁護士会所属。民事・刑事全般を手掛けるが、不動産関連の依頼が多い。

“隠れ倒産”が見えにくい「4つの理由」7月から急増と弁護士

公開日: 更新日:

 新型コロナウイルスによる外出や営業の自粛要請などで、日本経済は確実な不況に突入した。多くの中小企業が存続の危機にある。東証1部上場のアパレル大手「レナウン」が経営破綻し、帝国データバンクが5月15日、今年の倒産件数が2013年以来7年ぶりに1万件を超えるとの見通しを明らかにした。いつどんな形で企業の断末魔は顕在化するのか。実は今も“隠れ倒産”が増えているが、表面上は分かりにくい背景がある。その「4つの理由」として説明しよう。

 ◇  ◇  ◇

1.裁判所が業務を縮小している

 東京商工リサーチの倒産統計は、破産や民事再生などの法的倒産と取引停止処分などの私的倒産と2つに分けて定義している。法的倒産の場合は申立日が分かれば申立日基準で、分からない場合は、破産手続の開始決定日基準。最近は、開始決定日基準の方が多いらしい。東京の破産事件は、申立書を提出してから3日以内に裁判官との面接が行われ、その翌週に決定が出ていた。

 しかし、コロナウイルスの蔓延が大きく報道された3月下旬頃から裁判所が業務を縮小しているので、破産手続の処理は事実上停止している。非常事態宣言後は民事事件の期日(法廷開催日)はほとんどが延期された。
破産手続も同様である。例えば東京地裁民事部は破産申立ての受付はするが、緊急性のある事件以外の処理を停止するというリリースを出している。

 破産事件の当事者にとってはたいていが喫緊の事件なのだが、裁判所にとっては「緊急性のある事件以外」という分類法もあるようだ。

 ただ、5月11日の週から裁判所は,破産事件の処理を再開したと聞く。これから、4月申立ての破産事件の処理が進むにつれて、破産事件の増加が倒産統計に表れてくるだろう。また、このように破産手続が進まない状態だと、申立て自体を躊躇するケースも少なくないと思う。申立て後に破産手続開始決定まで時間が空くと、債権者が企業に押し掛けたり、財産を誰かが持ち出してしまったりといった危険があるからだ。

2.弁護士の業務も縮小している

 当職も含めて弁護士も対面での法律相談が難しくなっている。顧問先や継続している事件の依頼者であればメールなどで話は進むが、新規に依頼される私的整理や破産は、依頼者と対面しなければ仕事をするのが難しい。まず、本人確認をしなくてはいけない。会計資料、契約書、賃金台帳や通帳、印鑑などの物品を預かる必要もある。事務所や倉庫があれば、申立て前に見に行く必要もある。

 さらに預金通帳は記帳しなければならない。取引先に対して債務額の調査も必要。不動産があれば、売却価格の査定も必須。銀行は一応営業しているが、取引先などは担当者が休んでいる場合も少なくない。不動産業者も今は動きがよくない。

 破産の申立書や資料は、紙で裁判所に提出する。申立ての準備のためには出力やコピーを行う。しかし、法律事務所の職員もフルに出勤できる状況ではない。

 破産の申立ての相談を受けた場合、従来なら1、2カ月で申立てをしていた事案が今では3カ月、4カ月と時間が掛かりそうな状態だ。

3.手形・小切手の不渡りが猶予

 これまでは手形・小切手の不渡りを6カ月以内に2回起こした場合、銀行取引の一部が停止され、倒産としてカウントされていた。

 2019年4月の法人の取引停止処分数は69件だった(全国銀行協会「全国法人取引停止処分者の負債状況」)。政府の要請によって20年4月16日付で手形・小切手の不渡りを猶予することになった。そのため、取引停止処分による倒産は4月中旬以降、統計から消えた。こうした倒産統計に表れない倒産は「隠れ倒産」と呼ばれている。いずれ実質的な倒産となって統計数値に表れる可能性が高い。

4.不況と倒産の増加は7月頃からか?

 一般に倒産件数が増加するの時期は、景気後退の始まりから多少のタイムラグが生じるとされている。

 東京都の外出自粛の呼びかけは3月25日。コロナ不況は景気循環的な不況ではない。さらに政府の景気対策による各種の給付金や融資緩和などもある。これらによって倒産の増加は3カ月程度遅延するのではないか。

 7月頃には裁判所や弁護士の業務も今よりはスムーズになっているので、その頃に件数が増えるのではないかと愚考する。

5.隠れ倒産にどう対応するべきか

 隠れ倒産が多い実態があるとして、ビジネスに携わる者はどう捉えるべきか。まず、隠れ倒産企業の労働者である場合だと、あまりできることはない。経営者が夜逃げをすると失業保険や未払賃金立替制度の受給に支障が出る。経営者にモノが言えるのなら、破産や再生法の適用などの法的倒産を促すべきだろう。

 隠れ倒産企業に対して売上未収金などの債権を持つ場合はどうすればいいのか。まずは、手形取引の安全性が低下したことを認識するべきである。コロナ以前は、不渡りを出した企業は事実上倒産した。だから企業は、手形を落とすことを資金繰りの最優先に考える。

 ところが今は、コロナの特別措置で不渡りを出しても取引停止処分にはならない。その分、手形の安全性は低下したと認識すべきだ。

 取り込み詐欺的な仕入れが増加する可能性もある。倒産した企業から「代金を支払うつもり発注したが、結果として売掛金を支払えなかった」と主張される事例だ。新規の取引先には十分に注意を払うべきである。従前の取引先に対しては、貸倒れとなったとしても致命傷にならないよう売掛金の規模・支払方法・支払いサイトに留意することが必要だろう。

 結局、倒産は法的に解決できる。最後に、隠れ倒産企業の経営者に対しては、決して自殺や夜逃げなどはせず、事後の処理を弁護士に相談してほしい。倒産は、突き詰めればお金の話である。

 日本は法治国家であるから、お金が無くなった人に対しての制度も整備されている。人が死んだり、当てどもなくどこかへ逃げる必要もない。

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