「スケベ心で騙された」M資金詐欺で31億円被害のコロワイド会長が証言した驚愕の新事実
「なんべん騙されても、スケベ心で騙されてしまいました」
「牛角」や「大戸屋」など多くの飲食ブランドを傘下におく外食大手チェーン「株式会社コロワイド」(神奈川県横浜市、東証一部上場)を一代で築いた蔵人金男会長(74)は、横浜地裁の法廷で後悔のありったけを率直に述べた。
蔵人会長が被害総額約31億円を騙し取られたいわゆる「M資金」詐欺事件の公判が11月11日、横浜地裁で開かれた。今年3月に始まった詐欺事件の公判で、ついに蔵人会長が証人として法廷に現れるということで、マスコミも注目していた。
この事件は2020年6月11日、マック青井こと武藤薫被告(67)、X、Yらが、神奈川県警捜査2課に逮捕されたことで公になり、一部上場企業の有名経営者が巨額の金を騙しとられたと世間に驚きを与えた。
しかし初公判前に、XとYは不起訴になり、武藤薫被告だけが起訴された。そのため本稿では不起訴になった2人の名前は伏せて報じる。
検察の主張によれば、この事件は武藤被告が蔵人会長に、存在しない太平洋戦争の戦勝国が管理している2800億円の資金(基幹産業育成資金、これがいわゆるM資金)が提供されると誤信させ、17年春頃から18年秋に計10回かけて、約31億円を振り込みさせたというもの。刑事事件とは別に、蔵人会長は武藤被告、X、Yの3人に約31億円の返還請求を求める民事裁判も起こしている。
■社長も”M資金”への振り込みを知っていた
今回の蔵人会長が証言で明らかにした新事実をいくつか紹介する。
蔵人会長は2013年に神奈川県・葉山町に住んでいる大学教授から、イギリス人だというマック青井(武藤被告)を紹介された。武藤被告は日本人が着ないようなスーツやネクタイをまとい、「MI6(英国の秘密情報部)に所属していた」と話したそうだ。武藤被告から2800億円の融資話の説明を受けた蔵人会長は、武藤被告と雑談をする中で融資話を信じていったという。
蔵人会長は融資を受けられないまま、武藤被告、XとYに保管料や倉庫代などさまざまな名目をつけられて、計10回、31億円以上をズルズルと振り込まされたが、一部は「賄賂」と認識して振り込んでいたという。
「(蔵人会長の対応が遅いため)いろんなところから文句が出ていて、賄賂を払わないといけないと(武藤被告が)言うので数億円を複数回、振り込んだ」と蔵人会長は証言した。
一連の振り込みについて、コロワイドの野尻公平社長と相談していたことも明らかになった。蔵人会長が振り込みをしようとするたびに、野尻社長からは「騙されていないか」と指摘されたという。蔵人会長は「ATMの前に立ったことも振り込んだこと(経験)もないので、誰かに頼まないとだめ(振込手続きができなかった)」だったため、会社関係者の助力が必要だった様子。そのため野尻社長から「騙されている」と100回は注意されたわけだが、それでも野尻社長は蔵人会長が金を振り込むのを止めることはできなかった。
このように、驚いたことに一連の行為を社長をはじめとする会社関係者が承知していたことだ。
過去のM資金詐欺事件を振り返ると、一部上場企業の経営者らが個人的に詐欺に遭っていたのがほとんどだった。そのため、事件化し表沙汰にすることはせず、泣き寝入りするのが常だった。今回の蔵人会長のケースは、社長自身も承知していたうえに、社員が英語の詐欺文書を翻訳し、詐欺師たちの口座に振り込みも代行していたという珍しいケースといえる。
資金源は会長自身の株売却益
また、一度に28億円もの大金を振り込んだことがあるが、この資金源は蔵人会長自身の株売却益だったことも明らかになった。蔵人会長は株を売却する際、証券会社から何に使うのかと聞かれて言い訳が立たずに困ったそうだが、それでも結局売却したようで、「一挙に売ると大変な騒ぎになるからちょこちょこ売った」と話した。
法廷では、蔵人会長が時おり武藤被告をにらみつけるように見ていたが、武藤被告は目線を合わせることなく、具合が悪そうに終始深くうなだれていた。当然ながら、2800億円の融資は実行されず、振り込んだカネも返金されることはなかった。そのため、蔵人会長は3人を刑事告発し、民事裁判を起こしたというわけだ。
今回の詐欺事件で検察が告訴したのは武藤被告のみ。だが、公判後、記者らの直撃に応じた蔵人会長は、「XとYは証拠が希薄だから公判は維持できないと検察は言った。しかし、これだけ調書取って、なにが証拠が希薄だ、バカ野郎って警察官も怒っているよ」とぶちまけ、裁判所を後にした。
今後、蔵人会長への弁護側証人尋問、XとYに対する証人尋問が予定されている。まだまだ何が飛び出すかわからない。
(取材・文=平井康嗣/日刊ゲンダイ)