がん闘病中に死去…沖縄・翁長知事が命を賭して訴えた正論
今年4月に膵臓がんの切除手術を受け、治療を受けながら公務を続けていた沖縄県の翁長雄志知事が死去しました。67歳でした。日刊ゲンダイは、闘病中の翁長氏が命を賭して訴え続けた正論を6月25日発売号の巻頭特集で取り上げました。ここに再掲載します。
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【巻頭特集 6月25日発売号】
一言一句、噛み締めるように絞り出された言葉に、胸を打たれた国民は多かったに違いない。23日、太平洋戦争末期の地上戦で犠牲となった住民らを悼む「慰霊の日」を迎えた沖縄県。73年前の沖縄戦で最後の激戦地となった糸満市摩文仁の平和祈念公園で開かれた沖縄全戦没者追悼式に出席した翁長雄志知事は「平和宣言」でこう訴えていた。
「東アジアをめぐる安全保障環境は大きく変化し、緊張緩和に向けた動きが始まっている」
「20年以上も前に合意した辺野古移設が普天間問題の唯一の解決策と言えるのか」
「辺野古に新基地を造らせないという私の決意は県民とともにあり、微塵も揺らぐことはない」
膵臓の腫瘍を切除する手術を受け、ステージ2の膵がんだったことを翁長知事が明らかにしたのは5月半ばだ。それから1カ月。当時と比べて体はやせ細り、頬はゲッソリ。誰の目から見ても闘病中は明らかだったが、「平和宣言」を力強く語る姿からは「沖縄に基地はいらない」という信念がにじみ出ていた。
翁長知事が指摘した通り、米国のトランプ大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長による史上初の米朝首脳会談以降、東アジアの安全保障環境は激変しつつあると言っていい。
トランプは会談直後の会見で、北の非核化に期待を示すとともに、在韓米軍の規模縮小や撤退の可能性にも言及。早速、8月に予定していた米韓合同軍事演習の中止を決定し、さらに米国防総省は今後3カ月の間に予定していた韓国との2つの軍事訓練の中止も公表した。
米国内の保守層からは「北朝鮮に譲歩し過ぎだ」といった批判が出ているとはいえ、少なくともトランプは現時点で、在韓米軍の規模縮小に向けて前向きな姿勢を崩してはいない。となれば、在韓米軍と一緒に対北朝鮮の即応部隊として維持されてきた在沖縄米軍の在り方も議論されるのは当然の理屈だ。とりわけ、見直しが急務なのは、国が沖縄県民の反対を押し切って強引に工事を進めている名護市辺野古沖への新基地移転だ。翁長知事は今年3月にワシントンでペリー元国防長官と面談した際、1996年の普天間基地の返還合意時から「県内移設」が条件になった理由として「北朝鮮の存在が大きい」と説明されたという。
その北朝鮮を取り巻く状況が将来、大きく変わる可能性があるにもかかわらず、日本政府は今後10年以上、1兆円近くも費用を負担して辺野古新基地を造る方針を変えないのだから、全くバカげた話だ。翁長知事が命を賭して提起したのは「日本政府は今こそ、全く新しい視点に立ち、在沖縄米軍の規模縮小、撤退を含めた安全保障体制を見直す時だ」という正論そのものなのだ。それなのに安倍政権の姿勢を見る限り、これまでと全く変わっていないからクビをかしげてしまう。
「東アジアの冷戦構造が大きく変わったにもかかわらず、日本政府は全く対応できていない。米朝、南北朝鮮が今も対立構造にあるという考えのままなのでしょう。米国に追従し、日米安保にしがみついて何も考えてこなかった外交姿勢の欠陥が今、如実に表れている。思考停止、フリーズしていると言っていいかもしれません。独立国家としてあり得ない状況です」(琉球新報の普久原均編集局長)