(35)高齢家族がいれば誰でも、今、この瞬間、介護が始まる可能性
高齢者施設探しを始めた時、母は82歳になっていた。認知症専門医院に入院中に誕生日を迎えていたが、同年代で元気に生活している人も多い年齢である。施設を選ぶにあたって、周囲にはまだ介護施設の入所経験がある友人がほとんどおらず、相談できる人もいなかったため、自分の判断力を信じて手探りで進めるしかなかった。
具体的な情報を得るために、関連する書籍を何冊も読み、インターネット上でも体験談を毎日のように検索した。その過程で、「離職率の低い施設を選ぶとよい」という指摘を目にした。職員の定着率は、施設の運営状況や職場の人間関係、ケアの質の継続性にも関わるため、重要な判断材料になるという。
離職率や職員体制、職種ごとの人数などの情報は、厚生労働省が提供するウェブサイト「介護サービス情報公表システム」で確認できることがわかった。このサイトでは、各施設の利用料金、サービス内容、医療連携体制、そして前年に離職した職員の数などが閲覧できる。制度上の情報開示義務があるため、比較的信頼性のあるデータとして活用できた。
施設の担当者に直接聞きづらいことでも、このシステムを通じて事前に確認できる項目は多かった。たとえば、常勤と非常勤の職員の割合、機能訓練指導員や看護職員の配置状況などが一覧で表示される。私が第1候補として考えていた施設についても、このシステムで内容を確認した。全体の規模は大きくなかったが、離職率が高くはないことが確認できた。