“年金博士”警鐘 支給年齢「68歳引き上げ」が意味すること
安倍政権は「人生100年時代」を掲げ、やたらと「高齢者の雇用」を強調する。美名の下、そこには年金の支給を減らしたい魂胆が透けて見える。ただ、年金の改悪は分からないように、ジワジワ進められていて、国民の将来不安はぼんやりしている。今年は、「年金改悪元年」ともいわれる。この先、公的年金は当てにできるのか――。多くのメディアで「年金博士」として活躍しているこの人にズバリ聞いた。
■わざと分かりにくい制度にして真実を知らせず
――昨年から今年にかけ、「年金」はターニングイヤーだそうですね。
昨年から年金の“目減り”が実施されました。マクロ経済スライドです。大ざっぱには毎年約1%ずつ年金が減額されていくと理解しておけばいい。物価の伸びより、年金の伸びを小さくするという制度です。物価が2%上がっても、年金は調整率0・9%を引いた1・1%の引き上げにとどまる。これは怖いんですよ。一見、年金額自体は1・1%上がっている。振り込まれた金額を見れば、「おっ、年金増えたね」ということになるんですけど、物価がそれよりも上昇しているので、同じものが買えない。きわめて分かりづらい仕組みなのです。
――情勢に応じて、調整率は変わる。
調整率というのは、平均寿命の伸びと現役の被保険者数の増減で変動します。平均寿命が伸びたり、現役世代が減れば、年金受給者が増えるため、調整率も上がる。現在、0・9%ですが、1・5や2%になることもあります。2%になれば、物価が2%上がっても、年金は据え置きになります。マイナススライドというのもある。物価の伸びが0・5%で、調整率の0・9%を引くとマイナス0・4%になる。年金支給額はマイナスにはしないのですが、マイナス分は次の年に繰り越すので、翌年物価が上がっても、繰り越した分によって年金が抑えられてしまうのです。
――分かりづらいですね。
わざと分かりにくくしている面があります。政府は真実が分かったら困るんです。年金は懐の問題ですから、国民の関心は高い。ロシアなど海外では年金改悪の動きに大規模なデモが起きています。
――13年かけて段階的に引き上げられてきた年金の保険料率が18・3%で固定され、引き上げが終わったのも昨年でした。
現役世代の負担増は打ち止めになりました。さあ、次に何をするのかという話ですね。代わりに、支給開始年齢を遅らせ、総支給額を減額するということです。
――今年はどんな年ですか。
5年に1度の財政検証の年です。毎回、比較的大きな見直しがありますが、年金支給開始年齢を68歳に引き上げることは既定路線です。すべての社会保障の仕組みが年金支給を68歳、あるいは70歳に引き上げてもOKになっているのです。例えば、雇用保険は基本65歳までだったんです。というのは、65歳からは年金が出るので雇用保険はもういいよねと。それが一昨年から65歳過ぎても被保険者なんです。つまり65歳過ぎても失業保険を受け取れる体制。これは「年金は出ないから働け」という布石です。
――68歳で済むのでしょうか。
日本は定年から5歳遅れで年金支給なんです。昔は定年は、男性が55歳、女性が50歳。60歳定年が義務づけられたのが1998年、その後、年金支給が65歳になった。今、国は65歳定年を目指しているんですね。だから年金支給は70歳になるんです。ただ、70歳という国はないので、まずは諸外国と同じく67~68歳かなと思います。
――盛んに「70歳雇用延長」が言われます。
それも布石です。年金制度の失敗を政府が会社に押し付けたわけです。