堺市資産家連続強盗殺人事件 西口宗宏死刑囚がアクリル板越しに流した涙
2011年11月、無職だった西口宗宏死刑囚(60)は強盗目的で歯科医夫人の60代女性を殺害、翌月には同市の80代男性を男性宅で殺害した。2人とも手足を拘束し、顔にラップを巻きつけて窒息死させている。14年3月に死刑判決が下った。
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「正直、死刑は怖いです。ご遺族には申し訳ないですが……」
2014年7月、大阪拘置所の面会室。西口死刑囚は初対面の私に、率直に心情を打ち明けた。この4カ月前、大阪地裁堺支部で死刑判決を受けていた。
報道の写真では恰幅(かっぷく)が良かったが、目の前の西口は小柄で痩せており、顔色も悪かった。
「ここに来てから食欲がなく、食べても吐いてしまうんで……」
罪の意識と死刑への恐怖で摂食障害に陥ったようだった。こんな男がなぜ、あんな酷い事件を……と私は思いを巡らせた。
11年11月、堺市のショッピングセンター駐車場で歯科医夫人の60代女性を襲い、現金約31万円とキャッシュカードを奪って殺害。さらに同12月、同市にある象印マホービン元副社長宅に押し入り、現金約80万円を奪って80代の元副社長を殺害した。2人とも手足を拘束し顔にラップを巻きつけて窒息死させるという残酷な殺し方で、女性のほうは遺体をドラム缶に入れて燃やすなど死後の尊厳も蹂躙(じゅうりん)している。
その7年前にも西口死刑囚は保険金目当てで自宅に放火し、懲役8年の刑を受けていた。仮出所から4カ月で起こした殺人に、情状は最悪だった。それだけに面会室での弱々しい姿は意外だったのだ。
犯行に及んだ事情をたずねると、彼はこう答えた。
「仮出所後、交際相手の女性宅に身を寄せていたんですが、就職が決まらなくて……。彼女に見捨てられるのが怖くて就職できたと嘘をつき、お金が必要になったんです」
金目当てに罪を犯すにしても、別の方法はいろいろあったのではないか。そうただすと、申し訳なさそうにこう言った。
「今は僕もそう思います。“かっぱらい”でもよかったんやな、と。でも、当時は人をあやめることしか思いつかなかったんです」
ラップを顔に巻きつける殺害方法は「映画か、テレビ」で知ったそうで、「刃物で刺したり、首を絞めたりするより怖くないと思ったんです」。
凶行の遠因となった女性への強い執着
報道では、金持ちの一人息子なのに遺産を食い潰して転落したように伝えられたが、両親とは血のつながりがなかった。情状鑑定では、西口死刑囚に対し「もらい子」という意識が強かった母の愛を感じられず、女性への執着が強くなったとされた。それが交際相手の女性に見捨てられるのを極端に恐れ、凶行に及ぶ遠因になったようだ。
西口死刑囚とは4年半ほど面会や手紙のやりとりを重ねた。この間、彼はずっと摂食障害と不眠に苦しんでいたが、ある時期から絵を描くことを心の支えにするようになった。腕前はどんどん上がり、死刑囚の表現展で賞をもらうほどに。私にも自作の絵で彩った年賀状や暑中見舞い、クリスマスカードをシーズンごとに送ってくれるようになった。
「ここでは、絵の具を使えないので、色鉛筆の芯を水に溶かし、絵の具のようにして使っているんです」
面会室でそんな話をする時、西口死刑囚は楽しそうだった。もともと妻と3人の子供がいたが、放火事件を起こした際に離婚し疎遠になっていた。取材者相手でも打ち解けた話ができると、心がなごむようだった。
最後に面会したのは、死刑が確定する直前の19年2月のこと。西口死刑囚は別れ際、アクリル板越しに私の目を見すえ、「長い間ありがとうございます」と言い、目に涙を浮かべていた。元来、情に厚い男だったのかもしれない。もちろん、だからといってその罪は決して許されない。