「私がエアロビック競技をメジャーにしてやるわ!」遅咲き全日本覇者のド根性

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上田真穂さん(エアロビック競技全日本チャンピオン)

 エアロビック競技とは、1980年代にスポーツジムで大流行したエアロビクスを起源とし、その後派生したエアロビックダンスが競技として発展。体操の柔軟さやパワーに加え、音楽に合わせるリズム感、そしてステージ上での表現力など、エンターテインメント性の高いスポーツだ。

 日本では1984年に第1回の全日本選手権が開催されるなど、世界に先駆けて普及してきた。現在、世界50カ国以上で行われ、国際体操連盟にも加盟。オリンピック種目化をめざしている。日本の実力は世界トップクラスだそうだ。

 そんなエアロビック競技の女子の部の全日本チャンピオンが、今回登場のこの人だ。2020年の「SUZUKI JAPAN CUP 全日本選手権」でシングル・トリオ・グループの3冠を達成した。

「これまで個人での全日本優勝はなかったので喜びは大きいです。28歳での全日本チャンピオンは遅咲きですが、自分ではこれからがスタートだと思っています」

 実は母親も元エアロビック全日本チャンピオン。その影響もあって、生まれた時からエアロビックに親しむ環境にあり、小学1年生から本格的に習い始めたという。

「最初はイヤイヤというか、仲良しのお友達と遊べるから、お菓子が食べられるから練習場に行っていました。そのうち、エアロビックを本気でやっている人たちの演技や熱意に引かれて、自分もやり始めたという感じですね」

五輪競技じゃない競技の悲哀

 高校を卒業すると日本体育大学に進学。そのきっかけを与えてくれたのは、日本人なら誰もが知るあの有名アスリートだ。

「体操の内村航平選手です。北京オリンピックでの演技を見て、自分もこんなトップアスリートになりたい! とすごく刺激を受けました」

 ところが、希望を胸に飛び込んだキャンパスには、理想とは違う現実があった。

「同級生に『オリンピック種目じゃないのに何でそんなに頑張るの?』と言われて……。自分はトップアスリートとして認められてないんだって、すごくショックでした」

 しかし、そこでめげないのがいいところ。「これからエアロビック競技をやりたい人が、こんなふうに言われたら絶対やめてしまう」と危機感を抱き、「だったらその世界を変えてやろう」と決意。エアロビック競技をもっとメジャーにしようと考えた。

 そのためには、まず自分が選手としてナンバーワンになることが一番。

「在学中は、合コンはおろか女子同士の飲み会にも行ったことがありません。そんなヒマがあったら練習したいと思っていましたね。周りからは『変わってるね』と言われましたが、人並外れているからそう言われると、むしろ褒め言葉だと思っていました」

 ただし本人の熱意とは裏腹に、結果は思うようについてこなかった。全日本学生選手権こそ女子シングルで4連覇を果たしたが、前記した通り、トップの証しである全日本シニアの女子シングル部門での初優勝は28歳、しかも29歳の誕生日まで1カ月を切っていた。20歳前後の若い選手がトップレベルで活躍していることを考えると、長いこと伸び悩んでいたと言わざるを得ない。

「熱意が空回りしてしまったというか……。それまでは勝たなきゃというMust(マスト)の精神が強すぎました。ですが昨年度はコロナ禍で当たり前のことができなくなって、練習したい、演技したい、試合に出たい、勝ちたいというWant(ウォント)の精神がすごく強くなったんです。そうすると変なプライドもなくなって、10歳下の後輩にも“その技どうやってやるの?”と平気で聞けるように。おかげで自分のレベルはもちろん、チームの雰囲気もよくなったのが、3冠につながったのだと思います」

 今月7日に行われた2021年度の全日本選手権では、ケガで女子シングルの出場を辞退したが、トリオ部門では堂々の連覇。名実ともに日本のエアロビック界を牽引している。

 そんな彼女には選手以外の顔もある。指導者、そして実業家の顔だ。

五輪選手でもバイトしながら競技を続けている現実

 1980年代に一世を風靡したエアロビクスを起源とするスポーツ、エアロビック競技。体操の要素に加え、リズミカルな音楽に合わせて演技するエンターテインメント性の高い競技内容が注目を集める。現在、世界50カ国以上で行われ、日本選手の実力は世界トップクラスだ。

 そんな日本のエアロビック競技界を、名実ともにリードしている。昨年の全日本選手権で女子シングル・トリオ・グループの3冠を達成。28歳と遅咲きながら、全日本チャンピオンとなった。

 実は、選手とは別の顔がある。まずは指導者の顔。所属するエアロビックチーム「アステム湘南VIGOROUS」の育成アカデミーのコーチを務める他、大学の一般体育の非常勤講師として働く。

 もうひとつが実業家の顔だ。「Maenomery」という現役アスリートのデュアルキャリアを支援する会社のサポートを受け、アスリートによるアスリートのための化粧品開発のプロジェクトリーダーを担う。化粧品メーカーと商談したり、デザイナーとパッケージについて検討したり、さまざまな実務をアスリート自ら行うのだ。

 参加者の中心は、エアロビック、カヌー、武術太極拳などの女子選手たち。音声配信SNS「クラブハウス」をきっかけに立ち上がったというのが今っぽいが、その思いは真剣だ。

「アスリートだからこそキレイでいたいよね、という一言から始まったのですが、ベースにあるのは女子スポーツの世界を変えたいということ。女子選手は大学卒業と同時にやめてしまう子が多く、オリンピック選手でさえコンビニでバイトしないと競技を続けられない厳しい現実があります。でも、アスリートという軸を生かしながら、競技資金に結び付けられることって、めちゃくちゃあると思うんです。でもそういうことに気づいていない人が多いので、まず自分が道を切り開き、ひとりでも多くの女子選手が1分1秒でも長く現役で活躍する礎になればと思っています」

 だから自分のホームページも、支援を受けているスポンサーの商品やサービスを販売するためにECサイト上につくった。

「アスリート上田真穂がいるのはスポンサー企業さんのおかげでもあるので、少しでも恩返しができればと。エアロビック競技ではスポンサーが付いている選手が少ないので、支援してくれるとこんなにメリットがありますよと示したい気持ちもあります。もちろん自分の競技資金の足しにも。将来的には自分の競技人生を記した写真集やグッズもいろいろ作って販売したいなと思っています」

アスリートとスポンサー企業を結びつけたい

 エアロビック競技の普及にも力を注ぐ。自分のチームを知ってもらうためファンクラブを設立し、活動拠点の茅ケ崎市の飲食店に一軒ずつポスターを持って回っている。

 とにかく競技以外にも精力的に活動するが、SNS上での誹謗中傷も少なからずあるという。

「マイナーなエアロビックの選手だからそんなことする時間があるんでしょ? とかいろいろ言われますね。でも、注目されている証拠だなと思って気にしていません。逆にコメントしてくれてありがとうって感謝したいぐらいです。マイナーだからこそ、こうやっていろいろな活動にチャレンジできているわけですからね」

 その活動は、スポンサー企業や大学、コーチ、チームメート、そして家族や友人など、多くの人たちに支えられていることにも感謝を忘れずにいるという。

 最後に、アスリートと実業家、それぞれの目標を聞いてみた。

「やっぱり競技を知ってもらうことが一番の目標なので、エアロビックの上田真穂ってやるよね! と言われるようなことをガンガンやりたいですね。例えばエアロビックのショーとか、私の名前を冠した大会とか。人は楽しそうなところに集まってくると思うので、たくさんのワクワクをつくりたいです」

(取材・文=いからしひろき/ライター)

▽上田真穂(うえだ・まほ) 1991年、品川生まれ。アステム湘南VIGOROUS所属。エアロビック競技日本代表として国際大会に10年以上出場中。2020年、SUZUKIJAPANCUP全日本選手権で女子シングル・トリオ・グループの3冠を達成し、長年の夢であった個人での全日本チャンピオンに輝く。後進の指導や競技普及にも力を入れている。【オフィシャルホームページ】https://home.tsuku2.jp/storeDetail.php?scd=0000162918

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