「メッツの新庄剛志」誕生の瞬間 大阪城を望める部屋で基本合意書にサイン、乾杯は白ワイン

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大慈彌功(元メッツスカウト)#3

「アメリカに行くことにしました。お世話になります」

 新庄から電話がかかってきたのは、六本木の地下のイタリアンレストランでの密会から数日後のことだった。

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 3年契約ながら、メッツは20万ドルでいつでもクビにできる内容。保証されている金額は、7000万円あまりに過ぎない。それでも「この条件で行きます」という。

 新庄の希望した補殺数による出来高払いはあくまでも個人成績。勝利優先のメジャーでは無理なため、上層部に掛け合って打席数による出来高払いを付けてもらった。400打席以上、つまりレギュラーとして100試合程度に出場すれば、それ以上は打席数に応じたボーナスが入るようになった。

 メッツ入団が内定した後、わたしは大阪のホテルで新庄と会った。基本合意書に署名してもらうためだ。

 窓から大阪城が望めるシティーホテルの上階の部屋。そこで新たに出来高払いの加わった契約内容を改めて説明、本人にサインしてもらった。

「I signed contract」

 新庄の表情は真剣そのもの。それまで、日本人野手がだれひとりとして成功していないメジャーに自分が挑戦するという覚悟のようなものがうかがえた。

 時計の針は夜9時を回っていた。ニューヨークは朝7時すぎ。わたしはその場で現地にいるオマー・ミナヤGM補佐に電話をかけ、基本合意書にサインをもらったことを報告。通話がつながった状態の携帯電話を新庄に渡し、「I signed contract」と言ってもらった。

 ミナヤGM補佐から、

「Congratulation!」

 と返ってくると、それまで緊張で硬かった新庄の表情がほんの少しだけ緩んだ。

 正式契約はニューヨークに行ってから行うけれども、「ニューヨーク・メッツの新庄剛志」が誕生した瞬間だった。

 電話が終わると、2人で館内のレストランへ。白ワインで乾杯し、一緒に食事をした。

 メッツへの移籍表明は12月11日。新庄が会見で「自分に合った野球をできる環境が見つかりました。その球団はニューヨーク・メッツです」と言ったのは、わたしが元ロッテのエースで、旧知の黒木知宏を通じてメジャー志向や連絡先を聞き出した日米野球の最終戦から1カ月後のことだった。

 阪神の5年12億円を捨てて、7000万円強のメジャーを選択した新庄のスタンスは、メッツナインの共感を生んだ。

■ピアザがわざわざ挨拶に

 本契約を結ぶために渡米、メッツの本拠地であるニューヨークに滞在していたときのことだ。

 当時の正捕手であり、主砲のマイク・ピアザが、わざわざ新庄の宿泊先のホテルを調べて会いに来た。そして、ロビーで「ようこそ、ニューヨークへ」と挨拶してくれたのだ。ピアザは大金を捨てて夢を追う新庄の男気に心を動かされたようだった。

 新庄はチームの看板選手の歓迎に「これで心強くなった」と感激していた。 (この項つづく)

▽大慈彌功(おおじみ・いさお) 1956年、大分県出身。76年ドラフト外の捕手として太平洋クラブ(のちのクラウンライター、西武)に入団。引退後、渡英。ダイエー(現ソフトバンク)、ロッテで通訳を務めたのち、97年からメジャーのスカウトに。メッツ、ドジャース、アストロズ、フィリーズで環太平洋担当部長を歴任。

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