まさかの故障で失意の最中「お前はラッキー」…トシさんの言葉がなければ今の俺はいない
1996年の開幕前、脇腹を痛めて絶体絶命だった俺は10日間、まったく練習せず球場にも行かない「超安静」を決断した。
オープン戦が終わってトーナメントリーグ(※)が始まっても、家でボーッとする日々に不安が募った。前年の95年、高木守道監督がシーズン途中で辞任するなどチームが揺れる中、プロ入り初の2ケタ本塁打をマーク。レギュラーの足がかりをつくったものの、星野仙一監督が復帰し、レギュラー争いは混沌としていた。
そんな中、トシさん(高橋俊春)というベテランの打撃投手から、こう言われたのだ。
「武司、おまえはツイてんなあ」
何を言い出すのかと思った。
「何がですか。最悪じゃないですか」
「いやいや、おまえはラッキーだよ。去年から調子上げてきて、春先もたくさん練習して調子も良いまま来ているんだから、ここで一度休んだら、また調子良くなるぞ」
そんなわけないでしょ……と、その時は思ったが、のちにトシさんの言葉は現実になった。