薄れかけていた反核への思いを編む

公開日: 更新日:

 合間に紹介される、原爆の爆発時の高熱で原形をとどめぬほどに変形した象牙の印鑑をはじめ、放射能汚染の状態が目で見て分かる「オートラジオグラフ(放射線像)」という手法で映し出された飯舘村で採取したカエデや軍手(表紙)、現代アートのように放射能汚染物質を詰め込んだフレコンバッグが沿道に並ぶ川内村の風景など、生々しい写真に改めて胸が突かれる。そうした中に挟み込まれた、特産品の「凍み大根」を作る飯舘村のおばあちゃんたちの震災前の笑顔が印象的だ。それはこの何げない日常がかけがえのない風景であることを改めて教えてくれる。

 どこにでもあるような両脇に草が生い茂る一本道の写真が、エノラ・ゲイとボックス・カーが広島と長崎に向けて飛び立ったテニアン島の飛行場と分かると、途端に、その場所がとても意味のある、恐ろしい場所に思えてくる。

 各メッセージ、そして一枚一枚の写真が、私たちの薄れかけていた反核への思いに、再び小さな火をともす。

(講談社 1500円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    梅野隆太郎は崖っぷち…阪神顧問・岡田彰布氏が指摘した「坂本誠志郎で捕手一本化」の裏側

  2. 2

    阪神に「ポスティングで戦力外」の好循環…藤浪晋太郎&青柳晃洋が他球団流出も波風立たず

  3. 3

    阪神・佐藤輝明が“文春砲”に本塁打返しの鋼メンタル!球団はピリピリも、本人たちはどこ吹く風

  4. 4

    自民両院議員懇談会で「石破おろし」が不発だったこれだけの理由…目立った空席、“主導側”は発言せず欠席者も

  5. 5

    広末涼子「実況見分」タイミングの謎…新東名事故から3カ月以上なのに警察がメディアに流した理由

  1. 6

    参政党のSNS炎上で注目「ジャンボタニシ」の被害拡大中…温暖化で生息域拡大、防除ノウハウない生産者に大打撃

  2. 7

    国保の有効期限切れが8月1日からいよいよスタート…マイナ大混乱を招いた河野太郎前デジタル相の大罪

  3. 8

    『ナイアガラ・ムーン』の音源を聴き、ライバルの細野晴臣は素直に脱帽した

  4. 9

    初当選から9カ月の自民党・森下千里議員は今…参政党さや氏で改めて注目を浴びる"女性タレント議員"

  5. 10

    “死球の恐怖”藤浪晋太郎のDeNA入りにセ5球団が戦々恐々…「打者にストレス。パに行ってほしかった」